アラバマ物語

  • 暮しの手帖社 (2016年12月19日発売)
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感想 : 37

ざっくり言うと…

・小さな田舎町で起きた、差別問題が根底にある裁判の行方と、その後日譚。
・少女の視点から語られることで、ほのぼのとした愛すべき物語に仕上がっている。
・父アティカスの仕事ぶりが、尊敬に値する。理想の大人像!
・復讐劇に発展。多分、〇〇〇が助かったのは……!!

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古い小説だけど、急に手に取りたくなりました。トルーマン・カポーティとハーパー・リーが幼馴染だったことを思い出して。
カポーティの恐るべき傑作『冷血』執筆にあたって、ハーパー・リーの助力が大きかったこと。『アラバマ物語』に登場する少年ディルが、カポーティをモデルとしていること、等……。興味を持った理由がそこら辺なのだけど、それらの裏事情に通じる必要なんてなくて、純粋に胸に刻まれるすばらしさでした。

なんと心洗われるピュアな物語でしょうか。終始、善良であたたかいものが通っている。リーさん一世一代の名作劇場でした☆

カントリー調で(笑)、ずいぶん昔なつかしいタッチの作品ではあるのだけれども、この作品には向こう100年色褪せない価値がある。
テーマが差別意識という、人間の本質を問う根深く普遍的な問題なのです。今も変わらず存在していますからね、誰かが誰かの上でなければ気がすまない人というのは……★

まず作品全体としては、田舎でのびのび暮らす兄妹の成長ストーリーであり、小さな町での生活シーンに多くのページが割かれています。作者の息が通ったいきいきとした描写に、親近感を誘われます。

また、常々、主人公がボーイッシュな少女小説は名作ぞろいだと思っている身として、確信深まる一作でした。スカウトは、男の子と一緒になって外で遊ぶのが大好きな、快活カントリーガールなのです。

作品最大の山場は何と言っても、白人優位の社会で濡れ衣を着せられた黒人を、アティカスがきわめて論理的に弁護した、例の一件! 偶然この裁判を目にしたことで、無邪気な少年少女が邪悪な大人と出会います。

父で弁護士アティカスのヒーロー感は、とにかく無敵の魅力。キッチリといい働きをする大人の態度で、いつの世の人間が読んでも気持ちいい。
アティカスの美点は、人種差別の撤廃やマイノリティを救おうとするというより、基本的に誰に対してもフェアネスを貫くところですね。

正義が勝つとは限らないこともさらりと書き抜かれていることが、この小説を深いものにしています。実話がもとになっているから、都合よく事が運ばなかったのでしょうけどね……☆

報われないことも多いと分かったうえで、人はどこまで真摯でいられるか、人としてどう生きるべきか。長く生きた人こそ揺らぐなかで、子どもの頃に見えていた風景に立ち返るというのも一つなのかもしれません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: フィクション
感想投稿日 : 2019年7月1日
読了日 : 2019年6月28日
本棚登録日 : 2019年6月28日

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