飛ぶ教室 (岩波少年文庫 141)

  • 岩波書店 (2006年10月17日発売)
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感想 : 189
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ドイツの寄宿学校にやってくるクリスマス!そのイベントを前にした少年たちの悩みや友情をユーモアたっぷりに描いた児童文学小説。学校同士の対決でハラハラし、先生との対話で癒される。

子どもにもオススメだし、大人になった読者にも手に取ってほしい。憧れの先生・正義さん、頼りになる大人・禁煙さんから見た少年たちの瑞々しい葛藤が眩しい。心の奥に降り積もった雪が、涙となって溶けだしていく。少年時代の純粋さ。その尊さを見つめることは、心の中で生き続ける少年の自分を大事にすることなのだ。きっとその少年は、自分が人生を通して大事にしたいものを持っている。

ボクサー志望のマティアス、貧しさを表に出さない秀才のマルティン、臆病な自分を乗り越えようとするウーリ、背負った境遇の重さにも倒れない詩人のジョニーなどなど、個性的なキャラがたくさん!敵ながらあっぱれなエーガーラントもカッコいい。正義さんや禁煙さんみたいな大人がいたら人生変わってただろうなあ。そんな先生を物語の中で実現したケストナーはすごい!

以下、好きな文章を引用しておきます。

p.19,20
人生、なにを悲しむかではなく、どれくらい深く悲しむかが重要なのだ。誓ってもいいが、子どもの涙はおとなの涙よりちいさいなんてことはない。おとなの涙よりも重いことだって、いくらでもある。誤解しないでくれ、みんな。なにも、むやみに泣けばいいと言っているのではないんだ。ただ、正直であることがどんなにつらくても、正直であるべきだ、と思うのだ。骨の髄まで正直であるべきだ、と。

p.125
「教師ってものにはな、変化する能力を維持するすごく重い義務と責任があるんだ。さもなきゃ、生徒は朝はベッドに寝ころがってて、授業はレコードにやらせればいいってことになるじゃないか。ちがうよ、ぼくらに必要なのは、教師っていう人間だ。歩くカンヅメじゃないんだ。ぼくらを成長させたいんなら、自分も成長しないではいられない教師が必要なんだよ」

p.167,168
「いまからぼくが言うことは、もともとみんなにはまるで関係ないんだけどさ。ねえ、ぼくに勇気があるかなんて、考えたことがある? ぼくが不安がってるなんて、気がついたことがある? 思いもよらなかっただろ? ここだけの話、ぼくはすごく気がちいさいんだ。でも、ぼくは要領がいいんでね、気づかれないようにしてるんだ。自分がいくじなしだってことは、そんなに気にしてない。いくじなしだってことを、恥ずかしいとも思ってない。それもやっぱり、ぼくが要領がいいからだ。欠点や弱みは、だれにだってあると思うよ。問題は、それをごまかすかどうかってことだ」

p.180
「とにかく、世間にはぼくみたいな生き方の人間がすくなすぎるんだよ。もちろん、みんながいかがわしい酒場のピアノ弾きになれと言ってるんじゃない。ぼくが願っているのは、なにがたいせつかということに思いをめぐらす時間をもつ人間が、もっとふえるといいということだ。金も地位も名声も、しょせん子どもじみたことだ。おもちゃだ。それ以上じゃない。ほんもののおとななら、そんなことは意に介さないはずだ」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2023年1月14日
読了日 : 2023年1月14日
本棚登録日 : 2023年1月14日

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