「日本国民全員を誘拐した。身代金五千億円を用意しろ」
今から44年前に西村京太郎が描いた前代未聞の誘拐ミステリー!誘拐という概念を覆す大胆な劇場型犯罪に名探偵・左文字が挑む。発想を転換させる鮮やかさを存分に味わえる。
解説にもある通り、誘拐をテーマにすると越えるべきハードルが多い。それを正直に飛ぶんじゃなく、時には潜り抜け、次は横を華麗にすり抜ける。世界の外から飛び出してくるような誘拐のロジックにワクワクしながら読んだ。誘拐って「警察には言うな」が予測変換されてくるような犯罪だけど、それを喧伝して日本中を巻き込むアイデアには唸った。そんな身代金の受け取り方があるんだ!と驚いた。
誘拐として完成された計画であったからこそ、自らの退路を断ってしまったのは皮肉。オセロで石を多く取っていたのが裏目に出て打ち場所が減り、最終的に負けるような感じ。報道や大衆の描き方も上手いよね。今でもこうなりそうだなって思う。
あと、肉親の命にすべてを投げ打とうとするあの人物はそこだけ見ると美談っぽいけど、その金は多くの被害者の命を踏み台にして作った金なんだぞ…。一番怖かったのはそこ。人間の裏表、そして金に色はついていない無情感も余韻に残る作品。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2021年4月16日
- 読了日 : 2021年4月16日
- 本棚登録日 : 2021年4月16日
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