坪内祐三「文庫本を狙え!」で紹介されていた文庫本レビューの第一弾。1997年発行。
坪内さんは大槻ケンヂの文章を「とてもオーソドックスな意味での名文」と評価していた。音楽家は名文を書く人が多いのだそうだ。音文一致とも評している。それに、音楽家って、読書家が多いのだろうか?
名文の例として坪内さんは、
「彼女との悲しい別れを綴った一文「踊る情感欠落人間」は、誰が読んでも胸にグッとくるだろう」と紹介している。
筋肉少女隊を率いるケンヂさんらしいユーモアを交えて、高校生からの初々しいABC体験を綴りながら、やがて初めて恋を知った2人の不器用で悲しい別れをを淡々と書いていた。
可笑しくてやがて悲しき男かな
という感じ。
他には、
「!(アイ・オウ)」という一文がある。大槻ケンヂが本格的に映画出演した一本について書いたエッセイ。最初は役者なんか出来ないと断ろうと思っていたらしいが、長期入院のお父さんを見舞って、絶妙の
「ああ‥‥まあ、どうだ‥‥」
「ああ、まあ‥‥」
「ああ‥‥そうか‥‥」
「ああ‥‥」
というジャイアント馬場と笠智衆のような会話の後の、帰り際に「ああそうそう映画出演の話があるけど断ろうと思うんだ」とひと言言ったら父親はまさかの「何故なんでもやってみようとしないんだ」と、ひと言返されたらしい。それで映画に出ることになったらしい。エッセイ執筆中がちょうど撮影中で、たいへんな悪夢を見るまで苦しんでいるという一編である。で、どんな映画だったのか調べてみた。
「![ai-ou](1991)」
「世渡り下手な3人のアウトローたちの青春像」だそうだ。主演に柴田恭兵、助演に錦織一清と大槻ケンヂ。ヒロインに岡部まり。監督はまだ堤ユキヒコと名乗っていた頃の堤幸彦。原案は有名になる前の遊川和彦。プロデュースはおニャンコのみ有名だった秋元康。主題曲はRCサクセションという、なんかものすごく観てみたくなるような一本なのだけど、DVDにも配信にも入っていない!!所謂「幻の一本」(名作かどうかは観てみないとなんとも言えない)である。早くアマプラで見せてくれ!!
ちなみに、お父さんと話をした後、秋元康に承諾の返事をしに行く。「彼は笑うと、さらに林家こぶ平にクリソツだった」と少しdisっている。まさかこの時、この人が日本で1番稼ぐプロデューサーになるとは思ってなかったのでしょう。
- 感想投稿日 : 2023年4月26日
- 読了日 : 2023年4月26日
- 本棚登録日 : 2023年4月26日
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