百年の家 (講談社の翻訳絵本)

  • 講談社 (2010年3月11日発売)
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感想 : 102
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本書は先に読んだ「あさのあつこ特別授業『マクベス』」の巻末で、中学生に向けてあさの先生がお勧めした本の中にあったもの。『ヴェニスの商人』『秘密の花園』『人間の絆』『エルマーの冒険』などの定番に混じりこれが入っていた。正直初めて聞いた書名。「大人のための絵本」だそうです。

1656年、ペスト流行の年に建てられた「わたし(家)」は長い間ずっと廃屋になっていたけど、きのこ狩りの子供たちに発見してもらう。1900年、狐やウサギも駆け回る森の丘陵地にある古い石と漆喰でつくられた一軒家だった。

19001年、補修工事が始まった。周りの木々は倒され、屋根は丈夫に敷き治された。すぐ近くに畠も耕されている。1905年荒れ果てた段々畠に葡萄が植えられた。1915年お嫁さんがやってきた。1916年産まれた子どもが牧師さんから祝福を受ける。1918年夫が戦死した。
そして、家は建て増しされながら続いてゆく。周りの葡萄畑、麦畑、果樹の畑は豊かに実り、葡萄収穫時には20人もの人々が一挙にワインを作ってゆく。戦争時には、避難場所になった。

あさのあつこさんは言います。

一軒の家とそこに住む人々と流れていく時代。死があり誕生があり、日々の暮らしがあり、戦争があります。これは、かけがえのない何かを喪失した大人のための絵本ではないでしょうか。そして、反戦のための一冊では。独断ですが、強く思います。


70年代になると、また家は荒れ果ててしまう。
そして1999年、丘陵を活かして家は現代風に生まれ変わっていた。古い石は、僅かに壁に塗り込められていた。
多くの人々が生まれ、集い、老い、ファドアウトしていき、新たな人々が家に集まる。百年の歳月を定点観測手法で温かな細密画が、イタリアのひとつの田舎が、描かれていた。
西欧では、家は修理し、建て増して住むのが当たり前だという。日本のように家は仮の住まいではない。日本のように数十年で建て替えするのは、異例なのだろう。
その中で、人びとは誕生し労働し時代に翻弄され、交代してゆく。家の歴史は、歴史そのもの、という気がする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: は行 フィクション
感想投稿日 : 2023年3月28日
読了日 : 2023年3月28日
本棚登録日 : 2023年3月28日

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コメント 4件

猫丸(nyancomaru)さんのコメント
2023/04/03

kuma0504さん
どーでも良いのですが、同じ長田弘が訳して、みすず書房から出ている「白バラはどこに」では、イラストレーターの名がロベルト・イーノセンティと、、、
何にせよ素晴らしいイラストレーターです。。。

kuma0504さんのコメント
2023/04/04

イーノセンティとインノチェンチィ?確かに同一人物臭さはあるけど、よくわからない‥‥。

猫丸(nyancomaru)さんのコメント
2023/04/04

kuma0504さん

Roberto Innocenti
http://www.robertoinnocenti.com

kuma0504さんのコメント
2023/04/04

猫丸さん、
Wikiによれば

ロベルト・インノチェンティ(Roberto Innocenti, 1940年 - )は、イタリアの画家。
(略)
『白バラはどこに』 ガラーツ共著 長田弘訳 みすず書房 2000
(略)
『百年の家』 J・パトリック・ルイス文 長田弘訳 講談社 2010

同一人物である事がわかりました。

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