白銀の墟 玄の月 第一巻 十二国記 (新潮文庫)

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  • 新潮社 (2019年10月12日発売)
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群盲象を撫でる。象とは何か。泰王の行方であり、戴そのものである。まだ象は1匹だが、群盲は新キャラ含めてぞろぞろ出現した。もちろん、今は4巻中1巻目の助走段階なので仕方ない。

私がファンタジーの魅力に目覚めたのは遅く、映画「ロード・オブ・ザ・リング(2001年)」からだった。それから3部作が完結するまでの3年間に「指輪物語」全10巻を読み終え、世の中には個人で「世界」をまるまる作ってしまう力技があることを知った。しかし、それには出来不出来、好き嫌いがある事もわかってきた。「ナルニア」「ハリーポッター」シリーズは、嫌いのうちに入る。宮部みゆきの「ブレイブ・ストーリー」その他のファンタジーは、波乱万丈で好みだが正直造り込みが不足している。しかし、上橋菜穂子の一連ファンタジーには大いに満足し、私の日本ファンタジーへの期待に希望を繋がせた。

その頃、小野不由美「十二国記」は、常に本屋の棚を賑わしていたが、簡単な設定チラシを見る限り、妖魔や魔術が使える異世界で、十二国の王が権謀術数を駆使して栄枯盛衰を重ねる物語なのだと勝手に思っていた。そんなゲーム感覚のファンタジーならば要らない。‥‥私は食わず嫌いだった。

そして昨年末「十二国シリーズ」に出会う。ここに至って田中芳樹「銀河英雄伝説」はSFではなくファンタジーだったのだ、と独言(ひとりごち)たのである。銀英伝の中の「理想独裁国家像」を壮大なスケールで再構築したのが、おそらく十二国シリーズである。その最大の長編が始まった。

今回は、前半は「西遊記」である。泰麒(玄奘)という倫理の塊のような人物、五山から使命を帯びて遣わされた李斎(孫悟空)、旅の途中で襲ってきたが仲間に加わる去思(沙悟浄)、技自慢の項梁(猪八戒)の旅の始まりは、西遊記を彷彿させる。そう言えば、妖魔の蔓延(はびこ)る十二国は、正に西遊記の世界と地続きの気がする。特に泰麒の佇まいは、此方の世界に帰って悟りを得たかの如くだ。角など無くとも、やはり高里は人間ではなく麒麟である。だとすれば、物語の帰趨は目に見えている。いや、はやるまい。今吐けば妄言である。

一方で、後半は一挙に「指輪物語」めいてきた。即ち、フロドとサムの孤独な旅と、アラゴルン率いる真の王と仇敵サウロンとの最終決戦に向かう旅と、二手に分かれて物語が進む構造は、1巻目から成立しているのではないか?いや、はやるまい。今吐けば妄言である。

私自身が盲(めしい)だ。象を撫でている。

年表(加筆訂正)
1400年ごろ 奏国宗王先新が登極 妻と3人の子仙籍に入る
      才国遵帝「覿面の罪」により斃れる
1470年 六太4歳延麒となる。
1479年(大化元年) 雁国延王尚隆が登極
1500年(大化21年)元州の乱 斡由誅殺
1700年ごろ 範国氾王登極

ーX96年 柳国劉王露峰が登極
ーX75年  恭国供王珠晶が登極
ーX 25年 舜国の王登極
ーX18年ごろ 芳国峯王仲韃登極
      才国采王砥尚登極
X元年   泰麒 胎果として日本に流される
X2年 才国采王砥尚崩御
    才国采王黄姑が登極
X9年末  慶国予王が登極
X10年  泰麒 2月蓬山に戻る
戴国泰王驍宗が登極
X11年 泰王驍宗文州の乱に出向いて行方不明
     泰麒 鳴蝕により戴から消える
X 12年 芳国峯王仲韃崩御、娘の祥瓊の仙籍剥奪 
     芳国の麒麟卵果が触により流される
X14年  5月慶国予王崩御
X15年(1992年?)陽子日本より来たる
     10月慶国景王陽子が登極
X 16年 功国塙王崩御
     慶国で和州の乱 
X17年  泰麒 10月蓬莱国(日本)より帰還
泰麒と李斎、戴に入国

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: は行 フィクション
感想投稿日 : 2020年4月11日
読了日 : 2020年4月11日
本棚登録日 : 2020年4月11日

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