なにたべた?: 伊藤比呂美+枝元なほみ往復書簡 (中公文庫 い 110-2)

  • 中央公論新社 (2011年1月22日発売)
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毎日つくって食べて子育てして、男のことで悩んで、それなのに仕事をもってひとり立ちしている女性たちの日常を、親友へのFAX通信という形で見せている。完全ふだん使いの言葉なので、覗き見している感覚になる。あゝこういう「生活」もあるのか。

お2人のことは、よく知らないということがわかった。伊藤比呂美は、池澤夏樹編集「日本文学全集」の「日本霊異記」現代語訳を読んだことがある。奔放な性にまみれた説話集を見事に取り出していた。枝元なほみは、毎回買っている「ビッグイシュー」で悩み相談を受けながらオリジナル料理も提案するという連載を持っていて、明るいお母さんという印象を持っていた(←彼女は独身ということは今回初めて知った)。印象じゃ女性はわからないということがわかった。

「カンボジア、行きたいな、でも行けないな。ごめんね。あんなにその気になったのにさ。
今おなかすいて(うそだ、すいてなかった。口さびしかっただけ)すりゴマ食べた。おいしかった。(これはほんと)」(ひろみ73p)

伊藤比呂美の本音が続いているように見えるけど、これも彼女の一面だろう。そうでないと、九州でAさんと別れたあと、カリフォルニアでBさんと暮らしている事の説明がつかない。枝元なほみも、2人の男と仕事の間で右往左往しているようなんだけど、ずっと東京で料理を作り続けていて、行間から匂ってくるのは、やはり自立した女性でした。

かっこよくないけど、かっこいい。

あ、この本は「出会い系サイトで70人と実際に出会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」を読んで唯一読んでみたいと思った本でした。花田菜々子さんが、コーチングでお世話になったゆかりさんにお勧めした本。「ゆかりさんに感じた強さややさしさがこの本と似ている。大人になっても日々悩んだり苦しんだりする。けれども、ふたりで一緒に笑ったり泣いたりすることで、生きるっていいな、と思わせてくれる。」とコメントしている。働く女性は、美しい、ってことかな。

以下、つくってみたいと思った伊藤比呂美さんのレシピを紹介。

・チキンの照り煮
鳥モモの皮を裏にして弱火でじっくり焼いて脂を出す。脂は捨てて、ざっとフライパンを洗って、改めてならべて、みりん、酒、醤油、八角、生姜、蓋をして煮込む。最後に蓋を取って、強火にして、照りかえらせる。
失敗をしたと思っても、あとから「いいにおい」かがして「いい色」になる。八角を入れるとぷんとにおいに乗って、日常から足を(ほんの半歩ですけど)踏み外せる気がします。生姜だけだと、馴染みすぎてそうはいかない。
←この辺りの表現が詩人たる所以だろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: な行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2020年7月7日
読了日 : 2020年7月7日
本棚登録日 : 2020年7月7日

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