絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたのか (NHK出版新書 541)

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  • NHK出版 (2018年1月8日発売)
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山極寿一氏の「暴力はどこから来たか」​は、今年1番大きな衝撃を受けた本だった。ただ、専門外の人類史は説明不足の所があった。よって、本書を紐解いた。ビックリしたのは、著者が山極さんと同じように、ダートやローレンツが提唱し「2001年宇宙の旅」で描かれて世界に伝播した「人類史は殺人・戦争の歴史」「戦争本能説」を、明確に間違いだと断定していることである(241p)。山極さんは京大。更科さんは東大だ。まるきり系統が違う2人が同じ結論を、同じ映画を紹介しながら批判しているのに、私は大いに勇気づけられた。私たち人類にお願いです。私の目の黒いうちに「戦争を無くす道筋」を、何とかつくって欲しい。

冒頭にある「主な人類生存表」は、実は最もビックリした部分である。本書を読んでいる間、何度もこの表に立ち帰った。6種のホモ属だけで見たとしても、我々ホモ・サピエンスの生存期間はまだやっと30万年間だ。ホモ・ハイデルベルゲンシス(約50万年間)、ホモ・ハビリス(約110万年間)、ホモ・エレクトゥス(約170万年間)よりは短いのである。種属として優秀かどうかの物差しを、その生存期間で測るとしたら、我々はもしかしたら、(このまま環境悪化が続き、戦争が無くならなければ)非常に劣った種属として、後世の歴史に刻まれるのかもしれない。

この本のテーマは「なぜ我々ホモ・サピエンスが生き延びたのか」というものだ。10万年前は、まだエレクトゥスもフロレスエンシスもネアンデルターレンシスも生きていた。なぜか、我々だけが生き残ったのである。

SFの世界では繰り返し「人類は宇宙人の遺伝子操作によって生まれた(だからホモ・サピエンスは「特別」なのだ)」という物語が作られて来た。しかし、この人類史を読むと、ホモ属だけで無く、アウトラピテクスもアルディピテクスも全て「特別」だったし、全て「失敗」して来ている。私は、ここまで人類学が進んでくると、今までのSF学説は成り立たないと思う。

更科氏は、人類史を描くに辺り、「このシナリオは正しいのか?」と繰り返し我々に問いかける。とても勉強になったのは、「筋道が立っているだけでは、それが真実であるとは言えない」ということを、何度も何度も我々に言い聞かせたのである。人類学は、必ずしも真実が明らかにされない推理小説みたいなものだ、と私は思う。だからこそ、読んでいてゾクゾクする部分がある。それでも、事実か発掘されて、ある事柄については真実だと「証明」出来る時がやってくる。その一つの方法が、第6章で展開される「原始形質と派生形質」の見極め方法である。なぜヒトとチンパンジーは類が違って、ヒトとアウトラピテクス・アフリカヌスは同じ人類なのか。それは派生形質(脳の大小)が違っていたとしても、原始形質(頭蓋骨の下側の大後頭孔)が同じだからである。こうやって、次々と「近縁」を決めていって、あのまるで見て来たかのような動物の「系統図」を作って来たというわけだ。

よって、証明出来ていないことは、キチンとまだ証明出来ていないと書いている。ヒトは「たくさん子どもを産む能力」を持っている。チンパンジーは生涯で6匹、ヒトははるかに多い。マリー・アントワネットの母親マリア・テレジアは16人産んだらしい。これは「共同して子育てする性質を持っているから」で間違いない。それに付随して「おばさん仮説」がある。ヒトだけは、閉経して子どもが産めなくなっても長く生き続けるらしい。これは共同子育ての後に「進化」した性質だというのである。あくまでもまだ「筋道が立っている」だけである。

更科氏が何度も強調し、私たちが肝に命じなければならないことがある。進化において「賢くて、強い者が生き残る」わけではないのだ。進化では「子供を多く残した方が生き残る」のである。脳が大きいから、力が強いから、ホモ・サピエンスは生き残ったわけではない。それで言えば、ネアンデルタール人が生き延びらなければならなかった。

なぜホモ・サピエンスが生き残ったのか。著者は、同時代に生きたネアンデルタール人と「少なくとも集団同士の大規模な争いはなかったようだ」という。著者はネアンデルタール人は、簡単な言語しか話せずに、社会的な基盤がなかったからだ、という。また、身体が大きく燃費が悪かった。氷河期を迎えて寒くなる。ホモ・サピエンスの優れた狩猟技術、細い身体と、防寒の工夫等により、8勝7敗でヒトが生き残った。著者はネアンデルタール人は、異様に記憶力が良かったかもしれないと想像する。現代でも生きていたら、と想像する。それは楽しい想像だ。

ネアンデルタール人は生息地をヒトに追われて絶滅した。著者は最後にこのように警笛を鳴らす。
「現在、多くの野生動物が、絶滅の危機に瀕している。(略)最も多いのは、生息地を人間に奪われて、絶滅しそうな生物だ。(略)椅子取りゲームのように、1人が座れば、もう1人は座れなくなるのだ」(244p)これを敷衍して云うと、「人口抑制しか、人類が生き残る道はない」のかもしれない。

2018年11月読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: た行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2018年11月16日
読了日 : 2018年11月16日
本棚登録日 : 2018年11月16日

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