ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯 (文春文庫 キ 16-1)

  • 文藝春秋 (2015年1月5日発売)
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イギリスのピアニスト、クレア・キップス(1890-1976)は、対ドイツ戦で灯火管制の続いていた1940年、玄関先で障がいを負ったスズメの雛を拾う。その日から12年間、スズメのクラレンスが老衰で亡くなるまで母子とも友愛関係とも取れる2人の交友が始まる。

マッチ棒の先のミルクを頼りに生命を繋いだ幼少期から、俳優のように地域の人気者になり、奇跡の歌声をむつみ出した青年期、卒中で倒れたあとシャンパンの「薬」によって奇跡の復活を果たし、眠るようにクレアの手のひらで亡くなった老年期。その一生は、本にされるや英国のみならず、世界中のペット愛好家から愛された。

私はつい最近、同じく英国で拾われたホームレスでビッグイシュー売り子の飼い猫が、瞬く間にロンドン子の人気者になって、映画出演まで(しかも2回)果たしたエピソードを思い出した。古今東西愛されペットの話は多いが、英国の愛され方は質が違うように思える。売るためにプロデュースされたペットは、時代を跨がない。僥倖にも拾われたペットが、その存在だけで、人に希望を与えるのである。思えば、ペルーからやってきて途方に暮れていた熊のパディントンも「拾われた」のでした。

その存在だけで?
いや、今回の相棒、2年前に夫を亡くしたばかりのクレアにとっては、唯一無二の個性と才能と愛らしさを持ったクラレンスは、彼女の冷静かつ詩的な文章によって普遍性のある人格まで(鳥格?)高められている。梨木香歩さんの訳も素晴らしい。むかし手乗り文鳥の飼育に失敗して可哀想なこともし、後悔の檻がずっと溜まっている私にとっても、とても癒しになる読書だった。

正月、ねおさんのレビューにより、本の存在を知った。ありがとうございます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: あ行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2023年1月30日
読了日 : 2023年1月30日
本棚登録日 : 2023年1月30日

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