四万年の絵 (月刊たくさんのふしぎ2016年7月号)

著者 :
  • 福音館書店 (2016年6月3日発売)
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感想 : 6
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アボリジニ(オーストラリア先住民の総称)が四万年前から手形を洞窟いっぱいに描き続けてきた岩絵があるという。「世界で一番長くかかれた絵」である。赤い絵の具を塗ってペタッと貼ったもの、絵の具を口に含んでプッと手の形をかたどったもの。

観光地の落書きじゃない。40000年。気の遠くなる様な昔から、人々の生きた証をそこに描き続けてきた人たちがいる。その想いは、同じ人類として容易に想像できる。装丁家山田英春さんは、世界の古代遺跡を渡って、そんな「不思議写真」を撮り続けてきた。考古学者や人類学者ではない視線が、写真にも現れて、私をドキドキさせる。

後半は手形以外の岩絵の紹介になる。アボリジニたちの具体的な生活と精神世界が展開する。もちろん日本の弥生時代にも、さまざまな絵画は存在する。岩絵を選ばなかった(古墳の「装飾」はあったが、あれは多分別系統)ために、岩絵よりもかなり抽象度が増してしまったのだろう。こちらはひどく具体的だ。狩猟の道具(槍やブーメラン)や儀式の道具(飾りや笛)が描かれる。食料たる動物やその他生き物(カンガルー、ワラビー、ハリモグラ、エリマキトカゲ、エミュー、イリエワニ、オオトカゲ、ナマズ、ディンゴ、ノコギリエイ)が描かれていて、まるで動物図鑑のよう。絶滅したフクロオオカミ、ゲニオルニス、ディプロトドンなども描かれている。

特徴的なのは、その幾つかが、まるでX線を通したように生き物の体を透かして描かれていることだ。とても興味深い。

更に興味深いのは、精霊たちが同じように描かれていること。その具体性は、ホントに見てきたよう。いや、見てきたのかもしれない。その構造を知ると、改めて上橋菜穂子「守り人シリーズ」に現れるナユグールなどの(もうひとつの世界)描写は、アボリジニのそれをモデルにしているのだな、とガッテンがゆく。

改めて、アボリジニたちの「人類としての知性の高さ」を尊敬する。武器を開発しなかったから、長い間他国の侵略者に苦しめられたけど、是非その叡智を存続させて欲しいと思う。

写真の絵本というべき福音館の「月刊たくさんのふしぎ」シリーズ。やまさんのレビューでこの岩絵の存在を知りました。ありがとうございました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: や行 ノンフィクション
感想投稿日 : 2022年7月26日
読了日 : 2022年7月26日
本棚登録日 : 2022年7月26日

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コメント 3件

猫丸(nyancomaru)さんのコメント
2022/07/28

kuma0504さん
アボリジニと聞くと「ピクニックatハンギングロック」を撮ったピーター・ウィアーの「ザ・ラスト・ウェーブ 」を思い出します。
この言い方は適切じゃないかも知れませんが、文明とか個人の権利とかから遠いほど、災厄から逃れる力があるような、、、(猫の寝子言です)

kuma0504さんのコメント
2022/07/28

猫丸さん、
「文明とか個人の権利とかから遠いほど、災厄から逃れる力がある」言い得て妙です!
戦争は、人類20万年の歴史から言えば、ついほんの最近数千年前に始めたばかりです。
アボリジニは、何故か国を作ろうとはしなかった。戦争も始めなかった。それは何故なのか?きっとどこかに研究書はあるとは思えるのですが、上橋菜穂子さん辺りに解説してもらいたい。

猫丸(nyancomaru)さんのコメント
2022/07/29

kuma0504さん
> 上橋菜穂子さん辺りに解説してもらいたい。
良いですね!

オーストラリア政府観光局のサイトに
「オーストラリア大陸の大地、海、水の伝統的所有者であるアボリジナルピープル及びトレス海峡諸島の人々と、6万年以上に渡るその文化ならびにカントリーの管理に敬意を表します。」
最近ではアボリジニと言う呼称は使われなくなっているそうです。

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