アボリジニ(オーストラリア先住民の総称)が四万年前から手形を洞窟いっぱいに描き続けてきた岩絵があるという。「世界で一番長くかかれた絵」である。赤い絵の具を塗ってペタッと貼ったもの、絵の具を口に含んでプッと手の形をかたどったもの。
観光地の落書きじゃない。40000年。気の遠くなる様な昔から、人々の生きた証をそこに描き続けてきた人たちがいる。その想いは、同じ人類として容易に想像できる。装丁家山田英春さんは、世界の古代遺跡を渡って、そんな「不思議写真」を撮り続けてきた。考古学者や人類学者ではない視線が、写真にも現れて、私をドキドキさせる。
後半は手形以外の岩絵の紹介になる。アボリジニたちの具体的な生活と精神世界が展開する。もちろん日本の弥生時代にも、さまざまな絵画は存在する。岩絵を選ばなかった(古墳の「装飾」はあったが、あれは多分別系統)ために、岩絵よりもかなり抽象度が増してしまったのだろう。こちらはひどく具体的だ。狩猟の道具(槍やブーメラン)や儀式の道具(飾りや笛)が描かれる。食料たる動物やその他生き物(カンガルー、ワラビー、ハリモグラ、エリマキトカゲ、エミュー、イリエワニ、オオトカゲ、ナマズ、ディンゴ、ノコギリエイ)が描かれていて、まるで動物図鑑のよう。絶滅したフクロオオカミ、ゲニオルニス、ディプロトドンなども描かれている。
特徴的なのは、その幾つかが、まるでX線を通したように生き物の体を透かして描かれていることだ。とても興味深い。
更に興味深いのは、精霊たちが同じように描かれていること。その具体性は、ホントに見てきたよう。いや、見てきたのかもしれない。その構造を知ると、改めて上橋菜穂子「守り人シリーズ」に現れるナユグールなどの(もうひとつの世界)描写は、アボリジニのそれをモデルにしているのだな、とガッテンがゆく。
改めて、アボリジニたちの「人類としての知性の高さ」を尊敬する。武器を開発しなかったから、長い間他国の侵略者に苦しめられたけど、是非その叡智を存続させて欲しいと思う。
写真の絵本というべき福音館の「月刊たくさんのふしぎ」シリーズ。やまさんのレビューでこの岩絵の存在を知りました。ありがとうございました。
- 感想投稿日 : 2022年7月26日
- 読了日 : 2022年7月26日
- 本棚登録日 : 2022年7月26日
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