アメリカが舞台でも、インドが舞台でも、インド系移民が登場する話でも、ラヒリが自らと向き合っている姿が垣間見えるようだった。
ピュリッツァー賞受賞のデビュー短篇集だが、既に、何作か書いてきているかのような熟練さを感じた。
そう感じた理由は、物語の設定の目の付け所が、ささやかで、よくそんな所を、みたいな細やかさがあったからだ。
そこに、ラヒリ自身の人生が反映されている様が加わっており、これだけ作家自身のパーソナリティーが小説に表れる方も、珍しいのではないかと思った。
視点を変えれば、それだけ自らと真摯に相対していることにもなる。
日常生活における、異国、移民、異文化間で起こる、悲喜こもごもな出来事。そして結末は、一見、やりきれない哀しさだけが残るようにも感じられるが、そこはラヒリの視点が素晴らしく、ちょっとしたシニカルさで切り抜けたり、おしゃれな喜劇になったり、母国の人がインド系移民の人に大切なことを教えられたりと、なるところに、ラヒリ独特のしたたかさを感じるのである。教えられる結末に関しては、ラヒリ自身の望みなのかもしれないと思うと、なんだか切なくなる。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
海外小説
- 感想投稿日 : 2020年8月10日
- 読了日 : 2020年8月10日
- 本棚登録日 : 2020年8月1日
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