長身で二枚目ながら、どこか人懐こくて憎めない、不器用さが魅力の、『亜愛一郎三部作』も、ついに本巻で完結を迎えました。
初期の頃と比較して、思いきり驚かされるような、大トリックこそ無いものの、より人間味溢れるやり取りが、楽しくも優しい物語を形成する中に、何気ない顔をしてひっそりと佇んでいる、そんな騙し絵的な伏線は相変わらずの切れ味を持ち、それは、日常生活に於いても、時には、視点を変えて世の中を見てみるのも面白いよといった、泡坂さんの温かいメッセージとも捉えられて、とても印象的でした。
最終巻なので、特に気になった話だけ、書いていきます。
「赤島砂上」
初っ端から、人間心理の裏を突いたような展開に、早速、泡坂さん流トリックへの拘りを感じさせられ、それは、背景や色に捕らわれないデッサンに例えたり、『隠すことは、顕れること』の台詞にも、よく表れています。
「歯痛の思い出」
亜(私の中では、ああさん)と井伊(いい)と上岡(うえおか)、三人が織り成すユーモラスな物語は、既に名前で遊んでいる感もあり、それは、「上岡菊けこ………? あら、失礼しました。上岡菊彦さん」と、敢えて上岡だけフルネームで呼ぶ台詞を、お笑いの天丼のように繰り返す、そんな遊び心が印象的な中でも、しっかりと物事の真意を見つめ続けていた、ああさんの推理眼は、お見事の一言。
「赤の讃歌」
あのお響姐さん、再登場には、泡坂さんもよく分かってらっしゃると、思わず口元がほころぶ中、そんな彼女と肩を並べるくらいの存在感を放つ、「阿佐冷子」の登場も楽しくて、物語が更に盛り上がる中、ここでも言葉遊びの妙が印象的で、それは、『亜→阿佐→朝日→浅日向→麻雛壇駅』と、もはやパズルみたいであるが、最も印象的だったのは、「鏑木正一郎」の絵の芸術性に潜まれていた、胸を捕まれるような彼の本能からの思いだった。
「火事酒屋」
渋いながらも、今作で私が一番好きなトリックで、これは想像してみないと実際分からないなと思わせた、普段全く気にかけないような点に着目している、泡坂さんの視点の多さに、改めて脱帽であり、「美鞠」のああさんへの好意的な応援が印象的な中、実はラストへの伏線が彼女の台詞に含まれている。
「亜愛一郎の逃亡」
そして、最後の作品であるが・・ここまで、主人公の正体を、はっきりとした形で提示しているのも、却って、珍しいのではないかという新鮮さに浸る中(特に推理ものに於いては)、そういえば何度か、あのワード出てたなと思い出して、念のため、過去の二作も見てみたら、「狼狽」の「ホロボの神」にもありましたよ・・・泡坂さん、もしかして、この時からこのエンディングを考えてたのかな。だとしたら、凄いね。
そして、ファンならば誰もが嬉しくなるであろう、終盤のあの粋な計らいには、泡坂さんの登場人物に対する愛情の極みを感じさせられて、嬉しい気持ちになるとともに、これでもう、本当にああさんとは会えないんだということも実感したら、自然と目頭が熱くなってきて・・・正直な気持ち、もっともっと、ああさんの活躍を見たかった。でも、最後の最後も彼らしくて、こういう終わり方で良かった。
後は、魞沢クン頼んだよ(勝手に後継者にするなってね)。
最後に、亜愛一郎といえば、事の真相を悟った時に見せる、白目をむいた姿であり、他の人がしても何とも思わないが、ああさんがすると、そんな怪しい姿にも愛しさを感じさせられて・・そんな気持ちを回文に表しました。
さようなら、ああさん!
また会う日まで、元気でね!!
『あいためしきたとうとだきしめたいあ』
『開いた目、四季経とうと、抱きしめたい、亜』
- 感想投稿日 : 2023年5月2日
- 読了日 : 2023年5月2日
- 本棚登録日 : 2023年5月2日
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