あおくんときいろちゃん (至光社国際版絵本)

  • 至光社 (1967年6月1日発売)
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ずっと読みたかった、古典と呼ばれる絵本(日本版は1967年)ではあるが、青色と黄色を混ぜたら緑色になる、それがいったいどうしたというのか? と思っていたら、実はそうでは無かった。

本書は、アムステルダム生まれの芸術家、「レオ・レオーニ」が、孫達にお話をせがまれた時、偶然生まれたもので、その辺の紙に色をつけて次々に登場人物を創り出しながら、孫達もレオーニも夢中になったというのは有名な話だそうです。

しかし実際に見ると、登場人物は、ただの色のついた丸っこいもので、家も楕円や四角と、大人からしたら抽象的な絵のように見えて、これは孫達相手だから、そう見えるのだろうと思ったら、そんなことはなく、読んでいく内にそう見えてくるのだから不思議で、それは文章のもたらすイマジネーションの効果が大きいのだろうと、私は思った。

以前読んだ本で、月刊「こどものとも」初代編集長の「松居直」さんは、『絵本の素晴らしさは、耳で聞く言葉の世界と絵で読む言葉の世界が合わさる事である』ような事を書かれていたが、本書の場合、耳で聞く言葉の世界が、絵の言葉の世界を形作っていくのではないかと感じられて、文章を見た途端に私の頭の中で、その世界が生き生きと形成され息づいていくのが、とても印象深い。

例えば、『あおくんの おうち ぱぱと ままと いっしょ』の絵は、茶色の楕円の中に、異なる大きさの三つの青色の丸があるだけだが、これで充分なのであり、おそらくその絵から、子どもたちは様々な会話を頭で巡らせたり、それぞれの表情を想像しているのかもしれない。

もう一つ例を書くと、いろんな色の丸が絶妙な距離感で介する場面、『おともだちが たくさん』の、ワイワイ皆が集まろうとする現在進行形の様子や、『ひらいた ひらいた なんのはな ひらいた』の丸が輪になっているだけで、楽しげに歌う表情や手を繋いでいるであろう様子が想像出来たり、『かえりみちでは とんだり はねたり』は、本当に跳ねているような躍動感があって、この抽象的絵柄から、どこまでも果てしなく広がるような、想像力の翼の素晴らしさたるや、まさしく本書が古典と呼ばれる所以が理解できた気がして、これは子どもたちに是非読み聞かせして欲しいなと、お勧めしたい作品だと思いました。

また、本書で使用している、滑らかな手触り感のある紙質は、おそらく色が、より鮮やかに映えるような意図があるのではと、勝手に推測しており、シンプルな絵柄だからこそ、こうしたちょっとした拘りのある心を込めた配慮には、子どもたちへの思いが覗えるようで素晴らしい。

それから、最初に記載した緑色になることであるが、これは読んでいて、何か人の見えざる心の深みを思わせたのが印象的で、元に戻る過程の描写には胸を打つものがあったことに加えて、私には、

『たとえ相手が、どれだけ心を許した仲良しの人であっても、その人の全ての領域には決して踏み込んではいけない』

そんなことを教えてくれたような気がして、それは大人でも案外軽く扱われる事のある、繊細なことだと感じ、子どもたちにも若い内から是非知っておいて欲しい、とても大切なことなんだと、改めて実感いたしました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外絵本
感想投稿日 : 2023年4月9日
読了日 : 2023年4月9日
本棚登録日 : 2023年4月9日

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