こすずめのぼうけん (こどものとも傑作集)

  • 福音館書店 (1977年4月1日発売)
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本棚登録 : 1489
感想 : 116
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 表紙と裏表紙の繋がった、どこまでも果てしなく広い大空を、気持ち良さそうに飛ぶ、こすずめは、とても自信に満ち溢れた表情に見えるけれど・・。

 ルース・エインズワースの作品は、クリスマス絵本特集で読んだ『ちいさなろば』以来だが、本書(1976年)でも彼女自身の人柄を窺わせるような、動物に向けた優しい眼差しは変わらず、それを通して感じられた大切なことは、人に対しても当て嵌まると思い、本書の場合は親子愛の素晴らしさである。


 最初の見開きの、こすずめの翼をパタパタさせる仕種も可愛らしい中、いよいよ、おかあさんすずめが飛び方を教えるところから物語は始まり、早速、言われた通りに、こすずめが前へ飛び立つと・・・おっ! 地面に落ちずにちゃんと空中に浮かんでいる、その姿を見ているだけで、なんだか熱いものがこみ上げてきそうだ。

 しかし、ここで、こすずめは、おかあさんの言い付けを守らず、もっと遠くまで行けると、一人でどんどん先へ飛んで行ってしまうという、この子どもならではの冒険心、分かるけど、大丈夫かな?

 そうしたら、案の定、最初こそ面白く感じていたのが、次第に羽根や頭が痛くなってきてしまった、こすずめは、どこかで休まなければならなくなり、飛んで行く先々で見つけた巣を、いくつも訪ねるのだが・・・。


 本書の絵は、『ぐるんぱのようちえん』でお馴染みの堀内誠一さんで、ここでは鉛筆と水彩によって、自然の景色を素朴に淡く描いた、さり気ない美しさのある中に於いて、どれだけ巣を訪ねても休むことの出来ない、こすずめの焦燥感と時間の経過が同時進行しているのが印象深く、こすずめが今度こそはと思っている気持ちに反して、日はどんどん暮れてゆく一方で、その素朴な美しさを夕焼けが包み込む場面には、もの寂しさが漂い、やがては夜が訪れようとしている場面に於いては、更に孤独感まで加わったようで、思わず、こすずめの気持ちを慮ってしまう。

 しかし、そんな辛い状況にあっても、こすずめは健気に、「ぼく、あなたの なかまでしょうか?」と問い掛けるのを諦めず、ここに来て改めて、「ぼく、ちゅん、ちゅん、ちゅんってきり いえないんですけど」の言葉の、今度も無理かなと内心感じさせる重さには、どうしようも無い、やるせなさもあるようで、心なしか、それを言うこすずめの目には涙が浮かんでいるようにも見えたが、それでも、そこで待っていたのは、ちょっとクスッとさせられながらも泣かされた、泣き笑いのような安堵感に、私もホッと胸をなで下ろす。

 そして、その後の見開きに於いて、元々は、こすずめがおかあさんの言い付けを守らなかったことがあるのだけれども、それくらいでは決して変わらぬ、おかあさんの子どもを想う愛の深さが、そこには確かに存在し、それは最後の見開きで、こすずめを見つめる、おかあさんの優しい表情にもよく表れており、そんな堀内さんの絵には、文章と共に見ることで、より親子の気持ちに感情移入出来るものがあって、それは絵本ならではの素晴らしさであると共に、絵本ならではの楽しさでもあると感じられたのは、石井桃子さんの上品で優しい言葉遣いの訳も同様であった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外絵本
感想投稿日 : 2024年1月4日
読了日 : 2024年1月4日
本棚登録日 : 2024年1月4日

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コメント 2件

傍らに珈琲を。さんのコメント
2024/01/04

たださん、初めまして。
沢山のいいねとフォローを有難う御座います!
バタバタしており、お声掛けが本日になってしまいました。
素敵な本棚ですね、絵本の博物館みたいでワクワクします。
私もフォローさせて頂いております。
当方、マイペースですし、長文レビューが多いのですが(汗)、どうぞ宜しくお願いします♪

たださんのコメント
2024/01/04

傍らに珈琲を。さん、初めまして。
こちらこそ、いいねとフォローをありがとうございます(^_^)

また、絵本の博物館なんて、嬉しいお言葉を、ありがとうございます!
私の中では、まだまだ読んでいるものが偏っていると認識しているので、今年はもっと広く読んでいければなと思っております。

それから、傍らに珈琲を。さんのレビューですが、一つの作品を深く掘り下げている事に
、とても驚きまして、凄いなあと尊敬致します。
また、小説に限らず、歌集等も読まれている、その幅の広さにも大きな魅力を感じました。

私の方から、ご挨拶出来れば良かったのですが、人見知りの為、このような優しいコメントを下さり、ありがとうございます(^-^)
それから、マイペースも長文レビューも気になりませんし(私も、どちらかというと長文になりがちなので)、寧ろ、それがその方の個性であったり、それだけ、一つの作品にじっくりと取り組むような姿勢を感じさせられる点に、好感を抱かせるものがあると思います。

こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします♪

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