まあちゃんのながいかみ

著者 :
  • 福音館書店 (1995年8月10日発売)
4.02
  • (149)
  • (94)
  • (125)
  • (8)
  • (0)
本棚登録 : 1844
感想 : 124
4

 「たかどのほうこ(高楼方子)」さんの物語には、時折、既存のありふれた価値観なんぞに捕らわれない、とにかくぶっ飛んでいる女の子が登場するが、この絵本はまさにその典型であります。


 ある日、女の子三人で午後のティータイムを優雅に楽しんでいたところ、髪の長いのを自慢にしていた「はあちゃん」と「みいちゃん」は、短いおかっぱの「まあちゃん」に、こんなことを話し出した。

「あたしたち、まだ もっと のばすの。ねぇ」
「ふーん、どれくらい?」
「せなかが ぜーんぶ かくれるくらいよ。ね、はあちゃん」
「ね、みいちゃん」

 これを聞いて、「ふふん、まだまだだね」と思ったのか、内心カチンときたのか、分からないが、まあちゃんは、こう返すのだった。

「なーんだ、あんたたち たったのそれしか のばさないの? あたしなんかね、もっと ずっと のばすんだから」
「へえ、どれくらい?」
「もっと、ずっとずっとずっとずっと、ずうーっとよ! そのながいことったらね……」

 さあ、ここから始まりますよ、まあちゃんの破天荒でぶっ飛んだ想像の世界が!

 それまでのモノクロで平凡に描かれた現実のティータイムから、一変して、「フルカラーで描かれた想像の世界こそ、あたしらしさよ!」と言わんばかりの絵は、そのあまりの長さに、絵本の向きも縦にせざるを得ない、ダイナミックな表現により、まずはジャブとして、橋の上からおさげを垂らして魚を釣れることをアピール! ちょっと痛そうにも思えるけど、そんな細かいこと気にすんなということなのでしょう。

 次は、横向きに戻して、今度は遠くまで余裕で届くわと言わんばかりの、おさげのロープをびゅーんと飛ばして牛を捕まえられること! だが、まるで綱引きのように見えるのが、なんとも面白く、
「ぐいぐい ぐいぐい ひっぱれば、まるごと いっとう あたしのもんよ」と言ってますが、牛には持ち主がいるから、まあちゃんのものにはなりません。おっと失礼、つい些末なことを言ってしまいました。

 更にその次は、海苔巻きみたいにくるまって外でも眠ることが出来ること! 確かに寝袋みたいで気持ち良さそうだけど、木の上で寝るのは却って危ないのでは・・・おっと、またまた些末なことを失礼いたしました。そうですよね。そんなこと気にしないからこその破天荒ですものね。それでも、木の下に備え付けた蚊取り線香には、しっかりとされた賢い一面も窺わせて、さすがでございます。

 更にその次の次は、右のおさげと左のおさげをぴーんと張って木に結べば、家中の洗濯物が全ていっぺんに干せる! って、ああ痛い痛い。さすがにこの重さはいくらなんでも無理が・・・って、そうですよね。何回も些末なこと言うなってことですね。はい、分かりました。しかも、干している間に読書をされるといった、その効率的な時間の活用法、是非とも学ばせて頂きます。えっ、「どろんこハリー」がおすすめなのですか? まあちゃんが仰るのでしたら、勿論、読ませていただきますとも!


 さあ、これだけぶっ飛んだ例を上げたら、二人も降参するだろうと思いきや、

「だけど、そんなに ながかったら あらうのが たいへんじゃない?」
「それに どうやって とかすのよ、そんなかみ」

 あ~あ、分かってないなあ。そんな些末なことを気にしているようだと、いつまで経っても、まあちゃんみたいな破天荒にはなれないぞ。それから、そんなかみとか言うんじゃないの。失礼でしょ。

「へっちゃらよぉ、おっもしろいもんよ!」

 あっ、やっぱり面白さ重視だったのですね(笑)

 そして、ここからのまあちゃんのかみの、更に予想の遥か上を行くような破天荒ぶりには、爽快感も加わったようで、最初の縦向きにした絵の、子どもならば絶対に喜びそうな清々しい例えから、その次の最早妖怪レベルの壮大さに(何度も失礼いたしました。つい突っ込みたくなりまして…)、極め付けは、想像力も固定観念も飛躍し過ぎた優雅な佇まいと、こりゃ、もう誰にも止められないな・・・


 この絵本、おそらく『ラプンチェル』を思い浮かべた方もいるのではないかと思うのですが、そちらとの大きな違いは、あっけらかんと大笑いして楽しみながらも、人間だけを巻き込んでいない点に、世界に於ける共存共栄の意識も植えさせるようなメッセージが込められていることだと思いまして、こうした破天荒振りを描きながらも、そうした世界への敬意は失わない、そんな点が、たかどのさんの素敵なところだと思います。

 しかも、この絵本、たかどのさんが初めて絵を描いた作品というのも印象的で、その絵は、とてもシンプルでありながら、水彩の優しい色使いと、どこかざっくりとした大らかな感じにも惹き付けられて、本書をきっかけに絵も描くようになられたこと、私はとても嬉しかったです。


ブクログスタッフさんへ。
 『ブックサンタ』、初めてタグ付けさせていただきました。

 今回、このような気楽に参加できる企画から、とても素晴らしいものへと発展出来ることを知りまして、絵本が大好きな私としては、子どもたちにプレゼントしたいものも多く、それが少しでもお役に立てればと(ブックリストの時は、ターゲットを絞るのが難しかったので)、これからも素敵な絵本を追いかけていきたいと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 絵本
感想投稿日 : 2023年10月20日
読了日 : 2023年10月20日
本棚登録日 : 2023年10月20日

みんなの感想をみる

コメント 2件

akikobbさんのコメント
2023/10/21

たださん、こんにちは。
たかどのワールドのぶっ飛び方が思い浮かぶレビューで、まだ読んでないのに笑ってしまいました。いつも意外性があって良いですよね。私も読んでみたいです。

たださんのコメント
2023/10/21

akikobbさん、こんばんは。
コメントありがとうございます(^^)

この前、図書館行ったときに、あと一冊、何にしようかなと探していて偶然見つけたら、たかどのさんが初めて絵を描かれた貴重な作品に出会えたので、ちょっとテンションが上がってしまいました(≧∀≦)

しかも、続編もあるそうなので、そちらも楽しみです♪
akikobbさんも是非どうぞ(^^)
娘さんにもおすすめですよ(*'▽'*)

ツイートする