作者「アリスン・アトリー」の田舎の暮らしを再現した、「グレー・ラビット」シリーズは、気立てがいい灰色うさぎのグレー・ラビットと、自信家の大うさぎ「ヘア」と、皮肉屋のりす「スキレル」の、森外れの家で共に暮らす三人を中心に展開される物語で、その素朴でありながら、動物特有の可愛らしさを、一点ものの素晴らしさで描いた、「マーガレット・テンペスト」の絵も、たいへん味わい深く印象的です。
そして、今回の主人公は、皆から畏れられている「ふくろう博士」で、グレー・ラビットが知恵を借りに伺ったりする以外は殆どの者が関わらず、大抵は夜に狩りをする凶暴なイメージが先行していたこともあり、ふくろう博士の家の中や、そこでの普段の暮らしぶりで感じられた真面目な一面を知ることが出来た意外性が良かった。
そんなある夜、とてつもない嵐が吹き荒れて皆が怖がる中、はりねずみの「ヘッジホッグ」だけは冷静に、『あらしで飛んでくのは大きなものだけ』と言ったことが的中したように、ふくろう博士の住むオークの木が地面に横倒しになっているのを、狩りから帰ってきた後で見つけた彼は悲しみのあまり、「ト、ホ、ホ、ホ、ホホウ!」と鳴くのに対して、風は「ヒッ、ヒッ、ヒー」と、お互いに上手いこと感情を表したようなやり取りもユーモラスな中、その悲しい声を聞きつけたグレー・ラビットは気になって、翌朝、雨降りの中、外に様子を見に行くと、案の定、家の木が倒れていて、ドアは外れ、本が全部散らばって濡れているのに驚いて、何冊か本を拾って濡れない場所に置くが、さすがに一人では埒が明かないと思い、家に帰って他の二人に相談すると、ヘアは「みんなで、できることをしなくてはならないな」、スキレルは、「お役にたつことをしてあげましょうよ」と、そのお上品にお茶を飲む姿も含め、何とも頼もしいじゃないの。
しかし、グレー・ラビットが、「じゃあ、新しい家が見つかるまでここにいてもらえば」みたいな事を言った瞬間、ヘアは「えっ、ここに?」と大きな声で反対し、スキレルはもう少し冷静に、「私たちとは生活習慣が違う」ことをアピールし、グレー・ラビットが、更にあれこれと考えを述べていく内に、あらら、二人とも黙っちゃったよ。
それならばと、「私たちで、それを探しにいったら」と提案すると、スキレルは「自分で見つけられないの?」と行きたくなさそうだったので、グレー・ラビットは、ふくろう博士が夜しか活動出来ない忙しさを伝えた上で、「サンドイッチのお弁当を持って家探しに出かけましょうよ」と言った瞬間、ヘアが「家探し、大賛成!」と、早速食べ物に釣られて、本当に分かりやすいんだから。
そして始まった、森の中の家探しだったが、幹にうろのある大木は、そう簡単に見つからないまま、お昼ご飯となり、グレー・ラビットが水たまりから辞書を拾い上げてハンカチで拭く中、スキレルは、わらべうたの本を見つけ出して読み耽り、ヘアは歴史の本を拾い読んでみるが、つまらなそうなのが、またそれぞれの性格を表していて面白いが、グレー・ラビットが「ふくろう博士、どこにいるのかしらねぇ」と心配する中、ヘアは「べつにあいたくもないなぁ。ふくろう博士なんて、この歴史の本とおなじで、つまらないよ」と、本人がいないのをいいことに言いたい放題で、あとでどうなっても知らないぞ。
その後は、スキレルの提案で、手分けして探すことになったのだが・・まずヘアは、牧草地で見つけたマッシュルームに気を取られて、本来の目的を忘れてしまい、そこで会ったおじいさんうさぎの話を聞き、更に食べ放題の畑へと行ってしまい、まあ、彼はこうなるのを予想していたので、頼みの綱はスキレルだと思ったら、彼女は彼女で、ナナカマドの木の赤い実でネックレスを作り、「わたしには、赤がにあうわねぇ」と悦に入り・・はいはい、とても綺麗でございますよ、だから本来の目的をそろそろしないと時間になるぞと思っていたら、今度はシラカバの木に夢中になって、終いには「ラン、ララ、ラン」と歌いながら遊びまくって寝る始末に・・・本当に期待を裏切らないね、あなたたちは。
そして、大本命のグレー・ラビットは、家探しに夢中になりすぎて、あたりが暗くなり始めるのも気付かない中、その努力が実って、やっと見つけた!
しかし、夜となり、急に独りぼっちの寂しさと、夜に徘徊する動物への恐怖を感じた彼女は、小さなツチボタルと一緒に、その木の中でお泊まりすることになるが、そのささやかな光だけを頼りに、つつましく眠る彼女の姿は、言葉通り、絵になるものがあり、とても清らかで美しい。
その一方で、ヘアはレタス畑を半分ほどたいらげて家に帰ってくると、先に帰っていたスキレルが、赤いネックレスをしたまま、揺り椅子で読んでいるのは、お昼ご飯の時に読んでいたふくろう博士の本で、こらこら泥棒になるぞと思うも、スキレルが気にしているのは、ヘアの膨らんだポケットにあるマッシュルームのようで、彼女は抜け目のない、しっかりしたところもあるんだけど、たまに突拍子もないことをするのが、なんともはや。
しかし、それでもグレー・ラビットが夕食の時間になっても帰ってこないのは、さすがに二人とも心配になり、ヘアが家の場所が分かるように蝋燭を灯して窓台に置いてから、玄関に立ち大声で呼びかける姿には、「あんた、やっぱり良いとこあるじゃん」と感動しそうになった時、なんとその声に現れたのは、彼らのたきぎ小屋を勝手に新しい住まいにしていた、ふくろう博士だったから、さあ大変。そのまま博士は家の中に入ってきて、夕食を全てたいらげるのに、ヘアは片足で立ったまま何も言えず、スキレルに至っては椅子の下に飛び込んでガタガタ震えてしまい・・尻尾見えてるよ! それよりも、こういうときに本を返したらどうですかとも思ったが、まあ、それこそ怖くて無理でしょうね。
その後、ふくろう博士が、「グレー・ラビットはわしが探しに行く」と出て行ったが、結局見つからず、夜が明けたので、今度はおまえたちがあの子を探しに行くのだと急き立てることに、スキレルは「まるで家族みたいに、口うるさいわね」と言うのも分かる気がして、このままだと本当に家族みたいになってしまうぞと心配する中、グレー・ラビットが帰ってきて、ほっとする二人だったが、皆夕食も朝食も食べていないことを思い出して、そこは、てきぱきとスキレルが糖蜜入りのおかゆを用意して、なんとかふくろう博士が新しい家に引っ越したくなるように、大掃除をして物を全て運び込むことを話し合う。
それから、三人は掃除用具を持ってブナの木へと向かうのだが、よくよく考えてみると、ヘアとスキレルは寝ていないんだよね。それなのに、ヘアは他の二人が気付かなかった点を配慮したり、スキレルもカーペット作りや、得意の木登りを活かした仕事をしたりと、ちゃんとふくろう博士のことを考えていて・・・かつて読んだ『スケートにゆく』だけのイメージで二人を捉えると、ちょっと可哀相な気もしてきて、「それとも成長したのかな?」と、少しほろっとする中、ヘアのあの出来事には、つい笑ってしまった。ごめん。でも、よく口だけで溜飲を下げられたね。やっぱりいろんな一面があるから、何でもない行動一つとっても印象に残るんだよね。
そして、こんな感じで物語はまだまだ続いていき、この電気もガスも水道もない、彼らの暮らしですが、それによる弊害は微塵も感じさせることなく、日々のささやかな出来事を、時には本音も素直にぶちまけながら、皆で力を合わせて楽しんでいる様子が、時を超えて、私の目の前に浮かんでくるようで、こうした楽しさは普遍的なものなんだろうなと思わせた、それは、作家アトリー自ら楽しんでいた暮らしであることを実感させられた、田舎暮らしの素晴らしさでもあったのです。
ちなみに、スキレルが家に持ち帰った、あの本ですが(結局、返さなかったのか^^;)、上手いこと、ヘアの爆笑エピソードを引き起こした、あれと等価交換みたいな形になったようで良かったし、最後のふくろう博士の気持ちも感動的で、ふくろう博士、良いとこあるじゃん!
- 感想投稿日 : 2023年8月26日
- 読了日 : 2023年8月25日
- 本棚登録日 : 2023年8月25日
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