ふたり静 (文春文庫 ふ 31-1 切り絵図屋清七)

著者 :
  • 文藝春秋 (2011年6月10日発売)
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感想 : 15
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久しぶりの藤原緋沙子さんの作品が、私の心を温めます。
ふたり静 ー 切り絵図屋清七シリーズの1作目
2011.06発行。字の大きさは…中。2022.06.03読了。★★★★☆
苦労して育った長谷清七郎は、人の心の痛みが分かるやさしい気持ちの持ち主です。その清七郎が江戸の町で颯爽と生きて行く人情物語です。
春塵、紅梅坂、ふたり静、の連作中編三話。

【春塵】
浪人の長谷清七郎25才は、勘定組頭で旗本三百石長谷半左衛門が、台所女中に産ませた子である。3年前に義兄で長谷家の嫡男・市之進と木刀で対決して勝ち、屋敷を出て長屋で暮らしながら浮世絵や絵双紙を扱う「紀の字屋」で働いています。
紀の字屋の主・藤兵衛が脚気(かっけ)で足を悪くして店を清七郎に譲ると言いだした。
紀の字屋に出入りしている絵師で甲州石和の名主の息子・与一郎が、賭場で捕まったのを助けた、お節介な清七郎のまわりに人が集まって来ます。
春塵(しゅんじん)とは、春風に舞い上がるすなぼこり。

【紅梅坂】
旗本千八百石の牧野長門守の奥方は、子供が出来なかったが、三年奉公で知行地からきた女中・おみよに牧野が手を付けて子供が生まれます。奥方は、我が子として育てる。三年経っても帰って来ないので、知行地からおみよの父・佐治平と許嫁・伊太郎が訪ねて来ると。佐治平が殺され。そして傷を負った伊太郎が、紀の字屋に助けを求めてくると…。

清七郎は、父・半左衛門と三年ぶりに屋敷で会うと。父は、清七郎に帰って来るように言うが、それは嫡男・市之進が祝言を挙げた織恵が病弱で子供を生めないと思われるため。万一の場合の跡継として屋敷に留め置こうとする。清七郎が、紀の字屋を継ぐことを話すと一年間の期間で成果を上げるように言い、もし上げることが出来ない時は、屋敷に帰って来るように命ずる。

清七郎は、母が亡くなっあと長谷家に引き取られるが。長谷家では、父・半左衛門の次男としてではなく、家士(家来)として扱われ。半左衛門を父とは呼べず旦那様と呼んで育つ。

【ふたり静】
清七郎は、むかし父・半左衛門から頂いた、幕府の普請方が、御府内の道路、水道、町屋敷、武家屋敷などの変遷を知る必要に迫られて作成した御府内の「御府内往還其外沿革図書」という絵図を商いに使うことを考え、両刀を捨てて町人となり、名も「清七」と改めて御府内の切絵図を作ることを始めます。まず最初は、江戸城御曲輪内の切り絵図と、外桜田門の絵図を七色の色刷りで作り各百文で売ります。

小平次は、一家で紙問屋津野屋に世話になっていたが、店を乗っ取ろうとした番頭の房次郎に謀られ父が毒殺され。津野屋の主人も毒殺され。房次郎は、津野屋の一人娘・おふくと祝言を挙げ店を乗っ取ります。小平次は、荒れ狂いとうとう巾着切り(掏摸)に身を落とします。そこを紀の字屋の先代に助けられます。

【読後】
藤原緋沙子さんの作品は、人を掘り下げて、人情味豊かに書かれていて、心があたたまり、ほんわかしてきます。展開も早く、テンポもよく、余分な文章もなく、読みやすいです。今回は、紀の字屋を営む清七、手伝う小平次、与一郎の三人を各話で深く語っています。藤原さんは、私の心に、登場人物を溶けこませていきます。

三話とも良かったです。その中でも小平次が秘かに想う津野屋の一人娘おふくへの想いを書いた「ふたり静」が特によかったです。
2011年6月~2019年12月までで6冊出版されています。これから読むのが楽しみです。

【再読】
読んでいる途中で、あれ、筋書が分かってきます…。いつ、読んだかはっきりしませんが、このシリーズは途中まで読んだようです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説
感想投稿日 : 2022年6月3日
読了日 : 2022年6月3日
本棚登録日 : 2022年5月7日

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