破戒 (岩波文庫 緑 23-2)

著者 :
  • 岩波書店 (2002年10月16日発売)
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「己のアイデンティティを隠しながら生きるのはとてもつらいだろう」

久しぶりに文学を読んで見たいと思い、
名著はないかと図書館で探したところ、本書に出くわした。

島崎藤村、国語か歴史の授業で「若菜集」を作った人だと学んで、
それ以外の知識はほぼなかった。
僕は本を借りるとき名著であればあるほど
内容を見ずに借りて何の先入観もないまま読みたい。
それは自分が感じた感性を大事にしたいからだ。

話は丑松がいわゆる部落の人間で、
それを父親から固く公言するなという戒めをずっと守っていた。
彼自身、自分の境遇を部落に生まれたという理由だけで絶えず悲観して、
世間から部落であるということが露呈しないように生きていた。
僕は残念だがかれの苦悩を感じ取ることができなかった。
部落の人の気持ちはそう理解できるものではない。
明治時代には部落という人間も一応は新平民として生きるチャンスが与えられたが、
それは形だけで実際はずっと除け者にされていた。
この陰湿ないじめというか、
嫌がらせは当の本人たちでないとわからないのだろう。

そんな丑松を唯一救ったのは、同じ部落の人間であるが、
社会に公言して本を出版する蓮太郎。
自分の出生を公言して精一杯生きる蓮太郎と、
自分の出生を隠しながら苦悩を続ける丑松の対比も面白い。

また明治という時代、
教育は規則であると言うからさすがに今から考えると時代遅れも甚だしい。
他人と異なるよりも、「和して皆同じ」がよしとされた。
そんな教育を未だに現代の学校でも行われているのではないか。
明治時代は欧米に追いつけ追い越せだが、
今は新たな価値観を模索しないといけない。
自分が何のために生まれてきて、そして社会に対して何ができるのか、
こんなことを考え個人の個性を大事にし、
能力を伸ばしていく場が公教育であるべきだと思う。

戒めを破り、自ら将来の道を絶った丑松。
本の終わりでは米国に飛ぶのだが、
彼はテキサスに渡り成功することができたのであろうか。
生徒からの信望がある丑松であれば、
どこに行っても僕は成功することができると思う。

人間の尊厳と本質を考えさせられた本でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学
感想投稿日 : 2012年12月19日
読了日 : 2012年12月18日
本棚登録日 : 2012年12月19日

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