黙過 (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店 (2020年9月4日発売)
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本棚登録 : 483
感想 : 48
5

下村さんの作品は今のところハズレなし。
本作は特に優れたミステリーでした。
「優先順位」「詐病」「命の天秤」「不正疑惑」「究極の選択」からなる医療ミステリーの短編集。
それぞれ異なる話のはずが「究極の選択」で全てが繋がり、各編で解決したはずの謎がひっくり返されます。見事な構成で不自然さや違和感もありません。
この構成だけでもすごいのに、問題提起もお見事。深く深く考えさせられました。

「命の天秤」では人間が食べるために動物を殺すことの是非を問いかけられ、私もこどもに聞かれたら答えに窮するかもしれないと気付かされました(この点はきちんと学び、自分なりの答えを持たなければ)。
また「究極の選択」はもう本当に究極で、どうかそんな選択をしなければならない状況が私の人生に訪れないでほしいと願うしかなく、そんな自分が情けなくなりました。
客観的に考えれば、作中にある「私たちは、命の過剰な重さに自らを雁字搦めにしてはいないでしょうか」という問いを素直に受け止め、あまりに不自然な状態で生き長らえる必要はないと言えるけれど、それがもし大切な身近な人間だったらと想像すると答えは出ないのです。

日々医療が進歩するのは素晴らしいことです。
けれど進歩と同時に人としての倫理観や、地球上に存在する動物の福祉、共存のあり方も考えておかないと私たち人間は医療の進歩の結果、絶望を味わう可能性もあることを知らされました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー
感想投稿日 : 2023年9月8日
読了日 : 2023年9月7日
本棚登録日 : 2023年9月7日

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