「鬼畜」の家: わが子を殺す親たち (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2019年1月27日発売)
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感想 : 51
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記憶に新しい三つの凄惨な虐待死亡事件。それら一件一件を丁寧に取材した石井光太氏のノンフィクション。

「文庫版あとがき」に記載されているが、どの事件の背景にも共通する真実があった。それは、「虐待親たちが生まれ育った環境の劣悪さ(338頁)」と「ゆがんだ親子関係(338頁)」。つまり、「犯人を育てた親が大きな問題を抱え、子供たちを虐待、もしくはそれに近い環境に置いていた。犯人たちは生まれつきのモンスターだったわけではなく、彼らの親こそがモンスターだったのだ。そういう意味では、犯人たちは幼少期からモンスターである親の言動に翻弄され、悩み苦しみ、人格から常識までをねじ曲げられたまま成人したと言えるだろう。愛情が何なのか、家族が何なのか、命の重みが何なのかを考える機会さえ与えられてこなかった。だからこそ、彼らが親となった時、「愛している」と言いながら、わが子を虐待し、命を奪ってしまうことになる(339頁)」。
だからこそ、石井氏は虐待問題への対策の困難さを訴える。それはつまり、「親が育児をする前から家庭の支援をはじめなければならない(340頁)」ということだ。「まっとうな子育てができない親がいることを認めた上で、出産直後、いや出産の前からそうした親の生活を支え、適切な育児が何かを教え、困難にぶつかればすぐに専門家が手を差し伸べられるような環境づくり(340頁)」がないと「虐待の萌芽を摘みとることは難しい(340頁)」と語る。だが、現実問題として、その実現は難しい。それでも、こうして本書として問題提起することで、我々一人一人が虐待事件の犯人をただ「鬼畜」という一言で終わらせるのではなく、その正体を正しい目で見据える必要性を訴えている。
本書は確かに、面白半分で読み進められるような内容ではない。だが、マスコミに報道される「鬼畜」虐待親という一辺倒な見方にメスを入れ、虐待事件の闇に眠る深層に迫ったものだった。読み終わった後に受ける衝撃を、我々は忘れてはならない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2019年8月21日
読了日 : 2019年8月21日
本棚登録日 : 2019年8月21日

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