長年積ん読していたものについに手を出した。
棚ざらしの理由のひとつが「古いから」だったが、どうして、とても30年近く前に書かれたものとは思えないくらいすぐれて現代的だ。しっかりした知性と観察眼を持った女性は、この世界の真の姿を昔からちゃんと見抜いていたのだろう。
台風によって都会人の生活が大きく損なわれるとか、街のど真ん中で何人も人死にが出るとかは、本書が書かれた頃には現在ほどのリアリティを持っていなかったように思う。ゆえに当時は「パニック小説」と呼ばれたわけだが、30年経って現実が本作に追いついてしまった。五原ゆかり、田村唯春、祖父江数人、平石紘作、木村昭吾、杉田茂といった面々も、むしろ2000年代以降によく描かれるようになったタイプのキャラクターだ。
登場人物の何人かはヒロイックな行動を取るが誰ひとりとして英雄とは描かれないし、かれらの深層をえぐり取る作者の筆はいっそ容赦ないほどだ。(才能ある)女性にしか書けない作品だとしみじみ思い、これが初読みである己の不明を恥じた。
狭義のクローズド・サークル作品ではないが、それのもたらすヒリヒリ感が好きな方にはぜひお薦めしたい。
2022/9/17読了
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
クローズド・サークルっぽい何か
- 感想投稿日 : 2022年9月18日
- 読了日 : 2022年9月18日
- 本棚登録日 : 2022年9月18日
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