厳寒の町

  • 東京創元社 (2019年8月22日発売)
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本棚登録 : 237
感想 : 39
5

相変わらずのアーナルデュルである。

被害者は1人、それも死後の発見。低所得者層(ちなみに移民)の子供(ちなみに男児)が、寂れた団地で死んでいた。そんな事件を、主人公(中年バツイチ偏屈オヤジ)が捜査していく。
あえて言うなら、ハデさ皆無の設定である。むしろ辛気くさい。むしろどころか、積極的に辛気くさい。なのに冒頭から引きずり込んで離さない、この筆力はどうだろう。
思うにこの作者は、ただ「事件」を書いてはいない。ただのセンセーショナルな「殺人事件」や「犯罪捜査」ではなく、キャラクターたちの生きざま、「人生」を描いているのだ。そこに私のような者は、どうしようもなく魅かれる。
別に何かを教えてくれるわけではない、ありふれた凡人の人生である。それでも、そこには示唆がある。その味わいの深さは、「事実は小説より奇なり」と言う時の「奇」に等しい。本書は「つくりごと」でありながら、現実の私たちがこれから人生を生きていく上でのよすがにさえできそうな、ちょっとないほどの妙味をたたえているのである。

ミステリ的な意味での「びっくり」も、メインのネタでこそないが仕込まれている。
日本の読者にとっては、訳者あとがきで明かされるある人物の真実も、それに相当するだろう。ただ、「わよ」「だわ」などと平気で訳してしまう訳者が、せっかくの著者の意識に追いつけていない気がして残念だった。

2019/8/28〜8/29読了

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリ&サスペンス
感想投稿日 : 2019年8月29日
読了日 : 2019年8月29日
本棚登録日 : 2019年8月29日

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