一橋桐子(76)の犯罪日記 (文芸書)

著者 :
  • 徳間書店 (2020年11月10日発売)
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感想 : 161
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「バッカス・レディ」を観た後で、日本の作家さん・原田ひ香さんが『一橋桐子(76)の犯罪日記』を上梓していたのを思い出した。新聞の書評欄で知り図書館で検索したが、その頃は未だ購入されていず、そのまま忘れてしまっていた。
原田さんだったらもっと巧くさばいてくれるに違いない。耳目を驚かすような大袈裟なタイトルに、1章の万引、2章の偽札、闇金、詐欺、誘拐、殺人と次々に犯罪が並んでいた。もしかしてハズレと読み始めたが、すぐに桐子の人となりを知り安心する。
小説は、両親をおくりわずかな年金と清掃のパートで細々と暮らしていた桐子が、同居していた親友のトモが亡くなり一軒家に住めなくなったところから始まる。このままだと孤独死して人に迷惑をかけてしまう。絶望を抱えながら過ごしていたある日、テレビで驚きの映像が目に入る。収容された高齢受刑者が、刑務所で介護されている。これだ! と光明を見出した桐子は『長く刑務所に入っていられる犯罪』を模索し始める。桐子が目指した犯罪は人を殺めずに迷惑をかけないというもの。
手始めに桐子は万引をしてみる。次は偽札作りは罪が重いと聞きコンビニのコピー機で一万円札のコピーに挑む。パチンコ屋の清掃中、顔見知りの客から闇金の手伝いを持ちかけられたり。ところが、その度に彼女の人柄もあって友人となる人に出会うのだ。
桐子に好感を持ったのは、結婚詐欺にあった俳句仲間の三笠氏を案じた個所だ。桐子は三笠氏に「自分が本当に詐欺に遭ったのかどうかを確かめて来てくれ」と頼まれていたが、詐欺にあったと分り彼に言うべきか迷っていた。『桐子は人を不安にしておくのが一番罪なことではないかと思っている。断ったり、否定したりすること以上に、相手を宙ぶらりんのまま捨て置くことは何よりも残酷なこと。「はっきり言うのはかわいそうだから」「断るのは気の毒」でなどと言い訳けで、それは自分が悪者になるのが嫌なだけだろう。でなければ、ひどいサディスト』。と、思って事実を告げる。(その事実にショックを受け三笠は身体を壊すのだが)。
仲良くなった女子高生、雪菜との交流も心温められた。しかし、桐子と雪菜は互いに申し合わせた誘拐狂言を企て失敗し仲を引き離されてしまう。最終章で、桐子は末期がんを患った老男に、『バッカスレディ』のソヨン宜しく自殺ほう助を頼まれる。優しい彼女らに付けこむ誘惑。桐子がすんでに踏みとどまれたのは、社長の久遠が身元保証人を引き受け、大家などの提案で生活保護申請を申し込んだりした連係プレーがあったからだ。桐子は、「その時が来たら殺してあげる、と約束するのではいけませんか。それまでは生きるということにしませんか」と老男に告げ男と別れた。
本書は、老人問題を取り上げながらも、人と人との結びつきを促している。2つの作品を同時期に味わえたのは感慨深い。

追記
桐子とトモが同居して家に植えられていたライラックの木。私も30年前に建てた新居にライラックを望んだ。理由は本書の彼女らとまったく同じで、オルコット作「ライラックの花の下」を少女期に読み、ライラックという花の名前が記憶に刻まれていた。その小説を探していたのだが、長い間見つけられなかった。「リラの花さく家」に改題されて出版されていると本書にあり、とても嬉しい。旧友にあったようで、すぐにでも読んで会いたくなった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年5月4日
読了日 : 2021年5月4日
本棚登録日 : 2021年5月4日

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コメント 2件

goya626さんのコメント
2021/06/29

ほう、本当に面白そうですね。さっそく、図書館で探してみます。

しずくさんのコメント
2021/06/29

気に入って下されば良いのですが(^.^/)))~~~
読まれた折りのレビューを楽しみにしています。

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