ライフ

著者 :
  • ポプラ社 (2019年5月28日発売)
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感想 : 163
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アルバイトを掛け持ちしながら独り暮らしを続けてきた井川幹太27歳。気楽なアパート暮らしのはずが、引っ越してきた「戸田さん」と望まぬ付き合いがはじまる。夫婦喧嘩から育児まで、あけっぴろげな隣人から頼りにされていく幹太。やがて幹太は自分のなかで押し殺してきたひとつの「願い」に気づいていく――。誰にも頼らず、ひとりで生きられればいいと思っていた青年が、新たな一歩を踏み出すまでを描いた胸熱くなる青春小説

本作の前に読んだのが「トリニティ」だったからか、主人公の27歳井川幹太君の持つほのぼのさに最後まで温かく読み終えた。彼は大学卒業後に就いた仕事を2度辞め、コンビニなどのバイト生活をしながら、大学当時から住み続けているアパートで9年近く暮らしている。そこの住人たちとの触れ合いにドラマチックな展開はないが、隣人たちは幹太君の人柄に打解け彼を引き込む。取り立てて世話をやいたり意見する性格ではない柔らかい物腰しー、いつのまにか頼りにされ当てにされるのは当然の成り行きだろうか。最近では聞かれない「お人好し」を思わせる。
母親の再婚相手で町の工務店を経営している義父の言葉に「仕事をする上での大事なのは大きなものを見すぎないこと。いきなり地球を救えって言われても無理でしょ?何をすれば良いか分からない。だから自分に出来ることをするしかない。ウチの工務店でいえば、水が無駄にならないようなしっかりとした工事をするとかそういうことかな」があった。早い段階で自分にあった仕事を探すように仕向けられるが、額面通りに好きな仕事を探さなくても良いのではないかと思えてくる。そうそう誰もが見つけられるものではないだろう。私は早く決めすぎて思い込んでしまった節もある。
隣に住む劇団員の坪内さんからチケットを買って観たお芝居が、テレビドラマのように分かり易くて普通だったことに、肩透かしを食らったと感想を持つけれど、小難しい内容でなくても良いんじゃないかと納得する所など実に愉快だった。
そうだよねぇ~と相槌を打ちながら新たな気づきを発見できる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2019年8月12日
読了日 : 2019年8月12日
本棚登録日 : 2019年8月12日

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