DX9というロボットを軸として、微妙に時間と場所がずれながらも、短編が繋がっていく近未来SF小説。良く出来ていると思う。思うけれども、伊藤計劃氏や円城塔氏の作品を読んだ後に読むと、ちょっと物足りなさがあると思う。
それは、書き方や世界観の表現の手法の問題だと思うのだけれども、どうしても似ている感じは否めない。否めないが著者の他の作品を読んでいないので、この本だけが特別なのかもしれない。
純粋さは記号化された存在となり、個性はノイズとなり排除されていく。いつの時代も人は悩み、現実から逃げ、問題を後回しにして、他人との接触はヴァーチャルな世界となり、ヴァーチャルな世界が、生きていることを実感できる場所となる。ヴァーチャルな世界のテロは、現実の世界に影響は無いが、人の価値観を変えていく可能性がある。繋がりは希薄化し、人は脆い存在となり、機械は耐久性と量産性が重視される。
SFだけれども、リアルでフェイクな世の中は、人の多面性を排除し、宗教により統一化され、悲劇が連鎖する。信用は連帯に繋がるが、広がりを求めない。人の記号化と個性のノイズ。純粋なデータのみが信頼される世の中に、真の幸福はあるのか。おそらくそれはヴァーチャルな世界の仮想幸福なのかもしれない。苦痛も悩みも無い世界で、無感動で生きていく、何も無い平穏こそが幸せなのだとしたら、思考は邪魔な存在になってしまう。
人が生きる意味とは何か、死ぬとどうなるのか、考えさせられるが、そこに明確な答えはなく、そしてこの本に求めるべきものではない。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2013年11月4日
- 読了日 : 2013年11月4日
- 本棚登録日 : 2013年10月30日
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