花の鎖

著者 :
  • 文藝春秋 (2011年3月8日発売)
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本棚登録 : 3996
感想 : 627

彼女の作品は、人の心の奥底の本性を暴きだす、静かながらも恐ろしいものばかり読んできました。
こんなどろどろした人の内面心理は知りたくないと思いながらも、平穏な日常の中に起こりうる異常な普遍性が気になって、苦手意識を持ちつつも、引き込まれるように彼女の著書を読んでいます。

この本もそうした流れの上にある、心理ミステリーかと思いながら、(今に来る、もうすぐ来る)とドキドキしながらページをくくっていきましたが、結局今回は、普通の生活から激しく逸脱するような展開は無く、(あれ?)と思いました。
いつもミステリー調の物語ばかり書く作家ではないということでしょう。
そういえば『少女』も、ミステリーではなかったような気がします。

深刻な犯罪下における息詰まる心理戦、不信や裏切りといった本音の応酬はないものの、自分に関わる謎の人物の素性を知ろうとするところから話は始まるため、クライムサスペンスならずともちょっとしたミステリー調。
いつも花束を届けてくるKという存在が、あしながおじさんのようでも、紫の薔薇の人のようでもあるため、ロマンチックさも醸し出されています。

章ごとに、花、雪、月の話に分かれ、それぞれ一人称となる女性が異なります。
(なんだか宝塚みたい)と思うし、何の説明もなく話が展開していくため、ばらばらの話を追っていくのに、骨が折れましたが、3人とも「アカシア商店街の梅香堂のきんつば」が好きだという共通点があるため、近くに住んでいる者同士なのかと思いながら読んでいきました。

そのうち、それぞれの話の展開が気になっていき、3人の繋がりには特に気を留めなくなっていましたが、梨花の探すKの正体が徐々に明らかになるにつれ、3人の女性の関係もゆっくりと見えてきます。
なるほど、そういう意味で、作品タイトルに繋がっていくんですね。
終始あだ名で通っており、本名がずっと明かされずにいた人もいましたが、梨花、紗月、美雪、と3人の名前を並べてみると、確かに花、雪、月の話となりました。

まさか生きる時代が違ったとは。上手に書かれているので、そのからくりに全く気がつきませんでした。
たしかに、きんつばとはまた、今どき渋いお菓子を出してきたものだとは思いましたが。

逆境に負けずにふんばり抜いてきた美しい女性たち。
現代の追い込まれた状況に途方に暮れる梨花も、祖母や母のようにがんばって強く生きていけそうなエンディングです。
Kの正体は、結局明かされてみれば、ロマンチックさは消え、妙に現実感漂うものだったところに、リアルな生々しさを感じました。

ミステリーを期待していた分、拍子抜け感はいなめませんでしたが、普通の小説としては良く作り込まれた物語だと思います。
でもやっぱり、普段彼女の作品を読むたびにガツンとした衝撃を受けているため、今回はちょっと物足りない気がしました。

そして、きんつばに生クリームはやっぱり合わないと思います・・・。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学
感想投稿日 : 2011年11月8日
読了日 : 2011年11月8日
本棚登録日 : 2011年11月8日

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