測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?

  • みすず書房 (2019年4月27日発売)
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感想 : 66

パフォーマンス測定がしばしば不適切であり、効率化どころか弊害をもたらすことを、事例を挙げながら論じた本。
著者はアメリカの歴史学教授。数値評価によって痛い目に遭わされがちな人文系研究者の恨み節のようでもある。

経験や才能に基づく判断を標準化されたデータという指標に置き換えるべきである、その測定基準を公開することが説明責任(accountability)を果たす、測定基準に紐づく報酬や懲罰が組織に属する人への動機づけになる―以上の考え方への不適切な執着を「測定執着」とする。
不適切な効果として、以下のようなものがある。
・上澄みすくい(クリーミング):測定目標の達成だけを目指すことで、高リスク事例が排除される。
・アウトプットの評価は難しいため、インプットやプロセス等簡単に測定できるものでしか評価されなくなる。
・プロフェッショナルとしての経験に基づく判断が軽視される。
・非営利組織のスタッフは必ずしも外的報酬だけでなく、使命感などの内的報酬でも行動している。測定実績に基づくインセンティブ制度が導入されることで、むしろスタッフの意欲を棄損する可能性がある。
・測定自体にかかるコスト。
・短期的な評価。

豊富な事例で散々こきおろしているが、著者が否定するのは不適切な測定であって、測定自体を批判している訳ではない。たとえば軍の活動(治安維持)において、外来の野菜の市場価格が、地元住民にとっての平和と福利の指標になりうるという話(p134)。

最後(p180)のチェックリスト。
1.どういう種類の情報を測定しようと思っているのか?
2.情報はどのくらい有益なのか?
3.測定を増やすことはどれほど有益か?
4.標準化された測定に依存しないことで生じるコストはどんなものか?実績についてほかの情報源があるか?
5.測定はどのような目的のために使われるのか、言い換えるなら、その情報は誰に公開されるのか?
6.測定実績を得る際にかかるコストは?
7.組織のトップがなぜ実績測定を求めているのかきいてみる。
8.実績の判定方法は誰が、どのようにして開発したのか?
9.もっともすぐれた測定でさえ、汚職や目標のずれを生む恐れがあることを覚えておく。
10.ときには、何が可能かの限界を認識することが、叡知の始まりとなる場合もある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年2月20日
読了日 : 2024年2月8日
本棚登録日 : 2019年6月1日

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