先進国とは何か? 世界に冠たる言語学者にして反戦論者であるチョムスキーが世界の紛争の底辺にある病巣をえぐり出す。今日、悪は人類学的な視点から人のDNAに刷り込まれたものという観点が重視される傾向にある。著者はそこから距離を置き、正義とは一体何であるのか? それを説くに値する政治家や知識人はいるのかという問題からぶれずに警鐘を鳴らし続ける。
アメリカやロシア、英国、その他の「先進国」は歴史上、何をしてきたのか? それは大いなる罪と、それを糊塗するペテンであると著者は批判する。もちろん日本も例外ではない。だれでも自国のことには蒙昧であり、他国を批判する方がスムーズであるということを承知の上で、著者は歯に衣着せない。本書を通じて、歴史を振り返る意味は大いにあると言っていい。
巻末には辺見庸との対談(というよりチョムスキーへのインタビュー)があるが、本書が書かれて20年を経た今日、逸見の視点の狭さと、チョムスキーの透徹した観点の鋭さを確認できる。
必ず読んで置くべき本だろう。本書を踏み台とし、その先へ進むことを、何より著者は渇望している。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
哲学・思想
- 感想投稿日 : 2023年8月8日
- 読了日 : 2023年8月8日
- 本棚登録日 : 2023年7月21日
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