短編集で、それぞれの物語の主役同士が薄くつながっている…そういう本が私はけっこう好きなんだな、と今さら気づいた。
そういう短編集を今までいくつも読んできたけれど、つながり方にそれぞれ個性があるのが面白い。単純に人同士の場合もあるけれど、この小説の場合は“古びた雑居ビル”というどこにでもありそうな1つの建物がつながりの中心にある。
と言ってもビルの存在感はほぼ無いに等しくて、むしろ後になって「あ、この人もあのビルにいたんだ」と気づいたりするのがまた面白い。
登場するのは、シングルマザーのマッサージ師、喘息持ちのカフェバーの店長、理想の男から逃れられないOLなど。
人生は思うようにいかないことばかりだけど、もがいたり傷ついたりしながら、かすかな光を求めてまた立ち上がる。そんな人々の切実な思いが描かれる。
彩瀬まるさんの小説を読むのは「骨を彩る」に続き2冊目だけど、芯に人としての温かさを感じるという共通点があった。
簡単に批判したり断罪したりしない。少しの空白を持って人を見つめる。その距離感が温かいと感じる。
現実の人間でもそうだなと個人的には思う。距離が近いように見えて実のところ優しくない人はたくさんいて、本当に温かい人は、少しの距離をもって他人と接する独特の優しさを持っている。信じてるからベタベタしないし、何も知らないまま人を批判したりもしない。
そういう温かさを、この小説(を書いた著者)から感じたような気がする。
基本的にはなかなかうまくはいかない日常や人との関係が描かれているけれど、けして絶望的ではなくて、むしろ光の存在がすぐそこにあるような作品群。
失敗や理不尽な出来事、うまく進まない恋、こじれてしまった人間関係。現実の日々にも起こりうる出来事は登場人物を傷つけるけれど、そこから立ち上がるパワーを人が持つことも同時に教えてくれる。
全体的に、人に対する“赦し”のようなものを感じた。辛くても人を愛することは止められない、というような。
それぞれにとても良かったから選びがたいけれど、「光る背中」と「塔は崩れ、食事は止まず」がとくに好きだった。
両方とも、理不尽な人との断絶から立ち上がる女性の物語。
とあるアーティストが様々なかたちで全てに登場するところも共通点で、そのアーティストの作品に対する登場人物たちの感じ方の違いがその人の生きる指針を表しているところも面白かった。
- 感想投稿日 : 2017年7月29日
- 読了日 : 2017年7月29日
- 本棚登録日 : 2017年7月29日
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