血の味 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2003年2月28日発売)
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本棚登録 : 408
感想 : 52
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ストーリーも登場人物も全部がやるせない。誰も救われないし救えない。思春期を超えた大人たちですらみな孤独と正体不明の不安に怯えている。そうした人物たちに囲まれ、不安定な境遇と処理しきれない思春期のモヤモヤにより高まりすぎた主人公の内なる衝動が父を殺すと言う形で暴発するまでの話。やるせない。

父と子の話と言えばやはり同じ著者の「無名」を思い出す。あちらは父の最期を見守るのに対してこちらは父を殺してしまう。そしていずれの父も多くを語らず静かに本を読む人間で、どちらの父も同一人物のように感じてしまい、著者自身がこの小説の主人公になりえた可能性を考えてしまう。
著者の思春期のしこりをこの小説の主人公に父を殺させることで発散したのかな、などと深読み。

黒革の本や「あそこ」にも答えはないんだろうな。多分これも思春期の口では説明できないいろいろな感情の比喩なんだと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年2月18日
読了日 : 2020年2月18日
本棚登録日 : 2020年2月18日

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