ディアスポラ

著者 :
  • 文藝春秋 (2011年8月4日発売)
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本棚登録 : 120
感想 : 20
5

(おそらく)原子力施設の事故により多くのの日本人が死に絶え、残る日本人も日本を捨て世界中に散り散りバラバラに避難した、という設定の小説。前半は日本を捨ててチベット自治区でギリギリの生活を行う人を描き、後半では日本に残り、ほぼすべての都市機能が死に絶えた中で酒造りに打ち込む人のお話。
原発の怖さとか教訓、がこの本のテーマではなく、この壮絶な世界において人がどのように考え、生きていくのかが淡々と描かれている、不思議な話だった。この作家の他の作品も読んでみたいな。

追記:
ディアスポラ、前半のチベット自治区の話について思ったこと(ネタバレあり)。
主人公はチベット外部の組織から派遣され、チベット自治区の日本人を「観察」しており、インマルサットという通信機を使って「外とつながって」いる。
自治区で現実を生きているなっちゃんが、日本で暮らしていた頃の携帯電話についてのよもやま話をした時にも、主人公は従来の常識的な見方でその話を解釈するのだが、なっちゃんに「諏訪さん、いいひとね。いつも、そうやってちゃんとしていたころのような考え方をまだするるのね。(中略)でもね、ちゃんとした場所からまだ見ている人には、見えないもんがあるのよ。」と笑われる。
これはつまり、主人公の様にこの非情な世界の中ではなく外にいる人には、中にいる人のことを理屈でしか解釈することができず、それは決して実感を伴った、真に迫ったものには成り得ない、つまり観察は上手く行かないことを暗に示している、という残念な解釈につながるのではないか。そしてラストシーンで主人公が見たなっちゃんの姿によって、主人公自身がそれを思い知らされているのではないだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2012年7月28日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年7月28日

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