デッドエンドの思い出 (文春文庫 よ 20-2)

  • 文藝春秋 (2006年7月7日発売)
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感想 : 913
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 何から書こうかな。
 小説の話ではなく、私の話なのですが、実は最近、入院していた母が、一人暮らしの家には戻らず、ホームに入居しました。
 誰もいなくなった実家に母の荷物を取りに行くと、ひんやりと薄暗いその家の中に母と亡くなった父が作っていた温かい空気と笑い声を感じることが出来ました。
 母はその小さな家で幸せでした。父とかつては私と肩を寄せ合ってささやかに暮らし、孫たちが生まれるとよく預かって面倒を見てくれました。
 病気で倒れる前から、傍から見て一人暮らしは限界であったのに意地を張って頑として一人で暮らしていた母の守りたかったものは、この空気だったのだなと思いました。
 そう思うと塵ひとつ愛おしくなりました。
 よしもとばななさんの書きたかったのはこれに似た空気感だったと思います。
 母は病院で自分の状況がいまいちはっきり分からず、「家に帰る」とまだ意地を張っていましたが、病院のスタッフの皆さんに寄り添われ、諭されて、ホームに入ることを納得してくれました。
 母は80歳を超えてなお、更に大人になってくれたのです。
 ありがとう。そして、ごめんね、お母さん。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年3月31日
読了日 : 2022年3月31日
本棚登録日 : 2022年3月31日

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コメント 2件

yyさんのコメント
2022/04/01

Mocomi55 さん

Mocomi55 さんの優しさにあふれるレビューに
何とも言えない切なさと温かさを感じました。
よく似た経験をしているものですから…。

それぞれが少しずつ辛抱しながら
best ではなく、better を選んでいくしかないですよね。
お母さまが、これからの人生を
少しでも幸せに過ごされますように。

Macomi55さんのコメント
2022/04/02

yyさん

こんばんは。コメントどうもありがとうございます。嬉しかったです。
yyさんも同じような経験をされているのですね。
親が歳をとると、頼りないところばかり目がいってしまい、そのうちこちらが「大変だ」という思いに陥ってしまい…。
でも、親は何処までいっても人生の先輩なんですよね。自分の体や頭が自分のいうことを聞いてくれなくなるという経験、そんな中で、すがりつきたいものに力一杯すがりつき、最終的には本能的に家族のことを一番考えた選択をしてくれた。そんな姿を人生の先輩として見せてくれたと思います。いつか、この母の気持ちが分かる時がくるのでしょうね。
よしもとばななさんの本のレビューだったのですが、この渦中にあったので、ついつい母への思いと重なり、自分の話を書いてしまいました。

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