忘れたとは言わせない

  • KADOKAWA (2022年8月31日発売)
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感想 : 21
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北欧スウェーデンと言えば、美しい森と湖。オーロラ、白夜。「魔女の宅急便」に出てくるような綺麗な街並み。
そして手厚い福祉で幸福度も高いが、税金も高い国、というイメージ。
しかし、この小説では森も川もそして森、川を含んだ風景も、美しく綺麗には書かれていない。暗く全てを呑み込んでしまう恐ろしさを森や川、風景に感じてしまう。その森と川で起こった23年前のレイプ殺人事件。若い男達に、誘うように微笑みながら森の中に入っていくリーナ。他の男達にからかわれながらリーナの後を追う最年少14歳のウーロフ。この事件が、そして森や川が、この物語の全てを支配する。
物語の始まりはウーロフの父、スヴェン・ハーグストレームが殺されているところから。たまたま家に立ち寄ったウーロフが父の遺体を見付ける。しかしウーロフは23年前のレイプ殺人事件の加害者。つい逃げてしまうが、捕まる。読んでいるこっちは、ウーロフが犯人でないことだけはわかる。真犯人は誰か?
この小説は所々で、レイプ犯に対して徹底した嫌悪、憎悪を描いている。レイプは許されない犯罪であり、許してはいけない犯罪でもある。しかし、だからと言って行きすぎな制裁をしてはならない。例えば刑期を終えた者が反省し静かに生涯を終えたいと思っているのに、有らぬ疑いを持ち、声高らかに「制裁を」と強調して叫ぶこと。
或いはレイプ犯の疑いある者を無理やり犯人にする冤罪。この小説は、それも描いている。
何はともあれ、次から次へと目紛るしく変わる展開。次々と出て来る新事実。そして一癖も二癖もある容疑者とその家族。煽る群衆と軽薄な若者達。真面目な普通の女性警部補である主人公と自分に影響がない範囲で主人公に同情的な同僚たち。これ等の登場人物たちは、見方によっては魅力的。
この小説は面白い。さすがスウェーデン推理作家アカデミー最優秀長篇賞、スカンジナヴィア推理作家協会ガラスの鍵賞W受賞作にして、米国でTVシリーズ化も決定している小説。久しぶりに海外のサスペンスを読んだが、後を引く面白さだった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 推理小説、サスペンス小説
感想投稿日 : 2023年6月9日
読了日 : 2023年6月7日
本棚登録日 : 2023年6月7日

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