攻撃―悪の自然誌

  • みすず書房 (1985年5月1日発売)
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進化とは 皆殺し兵器 造るため?  放たれた矢 爆弾の雨 / これも、読みかけで長く積読状態だった本。 ロシアのウクライナ侵攻が目前に迫った今こそ読むべき時だと思い、手に取った。

第十四章「希望の糸」のあまりの細さに茫然。 ローレンツは、応用行動学や昇華の研究によって、人間の行動の原因を考察する目を深めることを求めている。 そして、一番確かな成果を期待できるものとして、攻撃欲を代償となる目的に向かって消散させて、カタルシスを実現することを挙げている。 なかでも、闘争が人間の文化生活の中で、儀式化され、発達したものとしてのスポーツの効用を説く。 そのほか、科学や芸術の役割を説き、笑いの活用も勧めている。

【この書で扱うのは、攻撃性(Aggression)、すなわち動物と人間の、同じ種の仲間に対する闘争の衝動のことである。】(まえがき) 【かりにひとりの行動学者が、ある別の惑星、たとえば火星から、人間の社会的行動を望遠鏡を使って客観的に調べてみたとしよう。(略)さて、その結果、かれは人間の行動が理性とか、ましてや責任感に従っているどころか、人間の社会集団はネズミのそれとたいへんよく似た構造をもっているのだと、十分な根拠をもって結論するだろう。

かれらはネズミ同様、閉じた同族の間では社交的に平和に暮らそうとするが、自分の党派でない仲間に対しては文字通り悪魔になるのだ。さらに、この火星の観察者が、人口の爆発的増加とか、武器の脅威の増大とか、人類が二、三の政治的陣営に分かれていることなども知ったとしたらどうだろう。かれは人類の未来を、ほとんど食糧もつきた船の上でいがみ合っているネズミの群れの行く末とさして変わらないと判断するだろう。】

【勝ちどきがハイイロガンの社会構造に重大な影響を与える、いや社会構造を支配してしまうように、熱狂して闘争を起こそうとする衝動もまた、人類の社会的・政治的構造を広汎に決定する。人類は、互いに敵対するいくつもの党派に分離してしまっているから闘争好きで攻撃的なのではなく、それが社会的攻撃性を消散させるのに必要な刺激状況を作り出しているからこそ、党派に分裂しているのだ。】

【だがそのほかにも、もっと大きな、そして本当の意味で人類の総力を結集すべき事業がふたつある。この事業こそは、はるかに大きな規模で、これまで無関係だったか敵どうしだった党派や諸国民を、共通の価値のためにこぞってふるいたたせるという任務をもつものである。それは芸術と科学である。(略)まさにこの任務のために、芸術はつねに非政治的でなければならない。】

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: その他
感想投稿日 : 2023年12月17日
読了日 : 2022年1月30日
本棚登録日 : 2010年4月22日

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