木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2014年2月28日発売)
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感想 : 68
5

筋肉質の大きな身体の男性が、アップに写る表紙、そして刺激的なタイトル。
この本が単行本として書店に置かれていた時から、「どんな内容なのだろう」と気になっていました。
しかしあまりの分厚さに躊躇っている間に、時は流れてしまいました。
記憶から薄れかけていたところ、上下巻の文庫となって平積みされていたので、今度は迷わず、レジに運びました。
「木村の前に木村なく、木村の後に木村なし」と言われた柔道王、木村政彦の生涯を追った、ノンフィクションです。
熊本の貧しい家庭に育った、木村少年。
その彼が日本一の柔道王、牛島辰熊と出会います。
彼が待ち受けていたのはまさしく、「鬼」の猛練習。
師弟が目標にしたのは、開催不定期の天覧試合を制覇すること。
「強くなりたい」という一心で、人の3倍、9時間とも10時間とも言われる壮絶な練習を積んだ木村は・・・という展開。
戦時中に柔道界トップに登りつめ、全盛期を迎えた木村。
しかし戦争による大会と練習の中断、戦後の柔道の組織統合・ルール変更。
師匠と離れ、抑えられていた奔放な性格を御せず、体力も経済力も堕ちていく日々。
その先に待っていたのが、もうひとりの怪物、力道山。
著者は木村の戦闘能力と、力道山の興行主としての力量を、詳細に検証していきます。
そして格闘家としての名声が地に落ちた木村が、その後どのような人生を歩んだのか、多くの関係者の証言を交えて、トレースしていきます。
一人の柔道家・格闘家の人生を追うということが主題になっているのですが、その副流として、数多くの要素が織り込まれているなあと、感じました。
主だったところを挙げてみます。
・柔道の成り立ちと講道館という存在、スポーツ競技としての柔道、立技と寝技
・師匠と弟子との関係、思想を持つ人間/持たない人間
・究極まで鍛えた人間の強さ
・武道としての格闘技と、プロとしての興行
・ブラジルの日本人移民の歴史と、柔道の世界伝播
・戦中/戦後における在日朝鮮人の意識の変化
・家族愛
上下巻通じて1200ページ近くある大作ですが、本流と副流のバランスが良いこともあり、次へ次へと、読み進めました。
格闘技に全く興味が無い人には辛い分量かもしれませんが、20世紀という時代を振り返るという意味でも、魅力がたくさんつまった作品だと思います。
読了後は、この本で触れられている試合を動画サイトであれこれ、見てしまいましたよ。
久しぶりに、「読み応えのあるノンフィクションに巡り合えたなあ」と感じた、力作でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2014年9月18日
読了日 : 2014年9月18日
本棚登録日 : 2014年9月18日

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