泰平の江戸を舞台に、3人の若者たちが活躍する畠中恵『まんまこと』シリーズ。

『ひとめぼれ』 シリーズ第6弾
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/B089PZB6TG

第7弾のこの作品がAudibleにラインアップされていたので、聴くことにしました。

町名主の跡取り息子、麻之助。
過去に結婚の経験がある彼ですが、その妻を若くしてなくしてからは、独り身で両親と一緒に生活しています。

そこに持ち込まれたのが、再婚の話。
本人の意思とは別に、町の有力者3人が、「麻之助の新たな縁談相手を探す」ことを、競い合う事態になります。
そこに現れたのが、縁談相手だという、若い娘。
彼女は誰の紹介で麻之助のところにやってきたのか、麻之助と彼女は縁談話を進めていくことになるのか・・・という始まり。

今回の作品も、6つの短編からなる連作短編集の構成になっています。
全体を通じての軸になっているのが、麻之助の再婚の話。
町内の揉め事や困りごとへの対応が主となる、町名主の仕事。
その仕事を支える妻として、誰を迎えるか。
ふんぎりがつかない麻之助と、なんとか世話をしようとする周囲の人たちとのやりとりが、コミカルに描かれています。

今回も、麻之助たち若者が困りごとを解決していく姿を、楽しく読ませてもらいました。
次が気になる終わり方だったので、さっそく次作を、Audibleで聴きたいと思います。
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2024年4月22日

読書状況 読み終わった [2024年4月22日]
カテゴリ 歴史・時代小説

幕末から明治にかけて活躍した絵師、河鍋暁斎の娘・河鍋とよ(暁翠)を主人公にした小説で直木賞を受賞した、澤田瞳子。

『星落ちて、なお』
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/B094HZY84B

明治から大正にかけての、日本画および絵師たちに降りかかった大きな変化と、そのうねりの中で自らに向き合い絵師であることを貫いた暁翠の内面を表現した、重厚な作品でした。
この作家さんの作品にはまだ未読のものがあることを思い出し、デビュー以来の中心テーマである古代を題材にしたこの作品を、読んでみることにしました。

本作品は、5つの短編で構成されています。

最初の『凱風の島』は、現在の沖縄本島を舞台にした、遣唐使のお話。
日本国内でなかなか進まない、仏教の戒律の普及のために招聘された、鑑真。
6回も繰り返すことになったその渡航が大変だったとは聞いていましたが、彼を引きとどめたい唐側の動きなど、船の運航以外にも要因があったのだということを、教えてもらいました。
そして航海技術が未発達だったこの時代、それぞれの船が無事にたどり着くかどうか、まさに紙一重だったということを、具体的なイメージを持って理解することができました。

表題作の『秋萩の散る』は、怪僧と呼ばれた道鏡が主人公。
孝謙天皇に重用され、天皇の血筋以外としては異例の出世をした彼ですが、女帝が崩御するとすぐに、東国の寺へと流罪同然の左遷をさせられてしまいます。
その地で出会ったのが、「呪い殺しが出来る」と言う老僧。
老僧から誘いを受けた道鏡が、孝謙天皇という女性が自分にとってどういう存在だったのか、その存在に自分はどう向き合うべきか、思い悩む姿が描かれています。
人の評判、歴史上の評価というものはどれだけ、人為的に曲げられるものなのか?歴史上の人物について、自分が知っていることはどれだけ正しいのか?と、考えさせられる内容でした。

5作品に共通するのが、奈良時代、それも女帝・孝謙天皇の時代が題材となっていること。
この時代に起こった大きな出来事の、サイドストーリー的な話を、時代順に読むような構成になっています。
一冊を読み通すことによって、この時代に、日本という国の形成に大きな影響を与えた出来事が起こっていたということを、学ばせてもらいました。
その変動の時代に、夫も子供もいない女性として描かれる孝謙天皇の姿が、(本人は登場しないのでよけいに)印象に残りました。

この作家さんがさまざまな題材を扱っていることは知っていますが、やはり、日本の古代を扱った作品は興味深いですね。
歴史を学ぶという意味でも、作品を探して読んでいきたいと思います。
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2024年4月8日

読書状況 読み終わった [2024年4月8日]
カテゴリ 歴史・時代小説

直木賞や本屋大賞などを受賞している人気作家、三浦しをん。
最初に読んだ『風が強く吹いている』が面白かったので、その後もこの作家さんの作品をチェックしています。

『愛なき世界』
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/B09LYKKYDZ

少し間があいたのですが、Audibleで公開した書き下ろし作品があると知り、聴くことにしました。

主人公は30代の男性、続(つづき)。
新宿の小さなホテルに勤める彼はある日、仕事を依頼している書家・遠田(とおだ)の家を訪れます。
ちょうど、子供向け書道教室の時間だったのですが、その生徒の一人に頼まれ、遠田とともにに、手紙の代筆をすることになります。

遠田と対面で話をするのはこの時が最後、と考えていた続ですが、なぜか、自分と同年代と思われる遠田は、続との交流を続けようとします。
戸惑いながらも、遠田のペースに巻き込まれ、対面でのやり取りを重ねる続。
当初は遠田を破天荒で近寄りがたい人物と思っていましたが、交流を重ねるにつれて、続は彼との時間を楽しみにするようになります。

そんな、若者?中年?男性二人の、仕事ともプライベートともつかない不思議な交流が、続の視点で描かれていきます。
二人の交流の成り行き、そして謎の多い人物・遠田が実は・・・という展開を読むのが、この小説の楽しみ方の一つかと思います。

遠田のユニークさを強調する設定として、職業が(一般的にあまり馴染みがない)書家であるというところに、この作家さんらしさを感じました。

自分自身はまず、書家という職業を生業としている人が(パソコンが普及した現在でも結構な人数が)いるということに驚いたのですが、ホテル業界などとの仕事のつながりに関する説明部分を読んで、「なるほど、今も需要があるのだな」と納得しました。

そして、以下のようなことを、考えさせてもらいました。
・友達と、友達じゃない”知り合い”との違いは何か?
・自分のことを理解できない相手とは、友達にはなれないのか?
・自分の過去にいつまで、責任を負わなければいけないのか?

専門的な仕事の世界を紹介し、かつ、人間に共通する悩み、モヤモヤ感を提示する。
三浦しをんらしい、かつ、新鮮な驚き・気づきを与えてくれる作品でした。

「やっぱり、三浦しをんは面白いなあ」と思い知らされた?ので、長編小説を中心に、未読の作品を探して読んでいきたいと思います。
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2024年4月3日

読書状況 読み終わった [2024年4月3日]
カテゴリ 小説

ヨーロッパの歴史を題材にした小説を発表している、佐藤賢一。
久しぶりにこの作家さんの作品を読んで、「やっぱり面白いなあ」と感じ入ってしまいました。

『ハンニバル戦記』
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/4122066786

「文庫化されている他の作品も読もう」と探したところ、幕末の歴史に登場するペリーを題材にした小説があることを知りました。
佐藤賢一がなぜ、この人を題材に取り上げたのか興味を持ち、読んでみることにしました。

1851年、ペリーが57歳の時点から、物語は始まります。

メキシコとの戦争などで大きな功績をあげて、海軍の軍人としては最高の階級である大佐まで昇り詰めたペリー。
50歳を過ぎ、閑職と呼ばれるポストに就いています。

しかし、海軍への熱い思いが残る彼は、国の上層部に進言をします。
それは、日本に船団を送り、国交を樹立すること。

自分が言ったことではあるものの、年齢的に自分が行くとは考えていなかった彼に、思いがけず、司令官就任の打診が来ます。
悩みながらもそれを受けたペリー。

遠く離れた日本との交渉に向けて、航海の準備をする彼は・・・という展開。

アメリカ国内でどのような調整と準備をし、日本との交渉に臨んだのか。
日本では「黒船来襲」と、”外圧”の象徴のように語られる日本開国。
その経緯が、アメリカ側のペリーの視点で、詳細に描写されています。

日本としては、迷惑、脅威でしかなかった、欧米列強による開国の要求。

当時の覇権国家であるイギリスと、新興国・アメリカとの競争。
奴隷制度の是非が議論されていた、南北戦争目前のアメリカ国内の状況。
親兄弟もアメリカ海軍、自らも海軍軍人として世界各地での勤務経験があった、ペリーの経験と人間性。

黒船に乗って日本に乗り込んできたペリーの側にも、さまざまな事情があったのですね。

そして本作品で強調されているのが、中国(清)や琉球との交渉も経験したペリーが感じる、日本という国の特殊性。
アメリカの言うなりに条約を結ばされた、という印象があったのですが、アメリカ側から見ても、当初の目論見から外れる部分のある交渉だったのだと教えてもらいました。

日本がなぜ、アジアで最も早く近代化を果たしたのか。
その理由を提示することも、この小説を書いた目的の一つだったのかな、と受け取りました。

『ハンニバル戦記』と同じ作家が書いたとは思えない、題材と文体の違い。
解説を読んで、佐藤賢一が日本史を題材にした小説を複数、発表していることを知りました。
引き出しの多い、作家さんなのですね。
今後も文庫化されている作品を探して、読んでいきたいと思います。
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2024年3月25日

読書状況 読み終わった [2024年3月25日]
カテゴリ 歴史・時代小説

食事、運動とともに、健康を維持するための重要な要素の一つ、睡眠。
良質な睡眠を得たいと、これまでも何冊か、関係する本を読んできました。

読むたびに、新たな知見が得られる分野なので、話題になった新刊本は読むようにしています。

この本は、『食欲人』と同じサンマーク出版から発売され、書店で並べて売られていたことから興味を持ち、読んでみることにしました。

『食欲人』
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/B0C6K12H4J

本書は3部12章で、構成されています。

第1部は、「なぜ睡眠が必要か」について。
一定時間以上寝るとなぜ、寿命が短くなるのか。
不思議に思っていたのですが、1章のコラムを読んで納得することができました。
またメラトニンについて、その働きを学ぶことができたので、盲信することなく、必要な時に活用したいと思います。

第2部は、睡眠の「すごい効果」について。
ノンレム睡眠、レム睡眠それぞれの役割、効果について、理解を深めることができました。

第3部は、熟睡できないと具体的に、どのようなことが起こるかについて。
特に睡眠時無呼吸症候群について、興味深く読ませてもらいました。
睡眠以外の対策・対処方法も記述されているので、症状が現れた時は、実践したいと思います。

全体を通じて、睡眠と健康について、網羅的に書かれた本だなと、感じました。
執筆された時点での最新の研究成果が反映されているので、これまで関連する本で読んだ知識のブラッシュアップと、新たな知識の取り込みをすることができました。
“光”について繰り返し、書かれていたので、本書を読んでいる途中から、アイマスクを購入して使い始めました。

研究途上の分野なので、今後も継続して関連する本を読んで、良質な睡眠の確保に努めていきたいと思います。
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2024年3月20日

ヨーロッパの歴史を題材にした小説を発表している、佐藤賢一。

長いこと、この作家さんの作品から遠ざかっていたのですが、その間に、魅力的な作品の数々を発表していることを知りました。

「久しぶりに、佐藤賢一の作品世界に触れてみよう」と思い立ち、文庫化されている作品の中から、特に時代が古いと思われるこの作品を、読んでみることにしました。

時は紀元前219年。
名門貴族の家に生まれたスキピオが17歳のシーンから、物語が始まります。

スキピオは同名で共和政ローマの最高職、執政官である父親から、出征を命じられます。
戦争の相手は、地中海を挟んでローマと対峙する、カルタゴ。

20年以上続いた戦争(第一次ポエニ戦争)で、ローマが勝利した相手ですが、19年の時を経て再び、大国となったローマに挑んできます。

そのカルタゴを率いるのが、ハンニバル。

戦地に赴いたスキピオは、ローマ軍が容易に勝てる相手と考えていたカルタゴ軍に、圧倒されてしまいます。

どこを目指して行軍しているのかも、どのような戦術でローマ軍と戦うのかもわからない、カルタゴ軍。
ハンニバル率いるカルタゴ軍の不気味さと、若きスキピオの苦戦が、描かれていきます。

自らを「凡夫」と定義するスキピオが、「天才」ハンニバルにどのように、立ち向かっていくのか。
その展開を読むのが、本書の楽しみ方だと思います。

ポエニ戦争については、ずいぶん前に読んだ『ローマ人の物語』で、おおよその流れを知っていました。
その記憶を辿りながら読んだのですが、スキピオという個人の視点で描かれていることもあり、ポエニ戦争での戦闘の過酷さ、ハンニバルという武将の怖さを、いっしょに体験するような感覚を、味わわせてもらいました。

作品の舞台は、紀元前のヨーロッパとアフリカ。
登場人物たちの名前も、多くの日本人読者には馴染みのないものが多いと思います。
そんな「遠い世界」の話ですが、スキピオをはじめとする登場人物に個性を持たせ、現代日本人が話しているような言葉で会話が進むので、理解に困ることなくすんなり、読み通すことができました。

久しぶりに読んだ佐藤賢一作品は、やっぱり面白く、読み応えがありました。
他にも未読の作品があるので、文庫化されているものを探して、読んでいきたいと思います。
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2024年3月11日

子供でも理解できるようなストーリーで、人生についての深い教訓が学べる、寓話。
ビジネス書を読むようになって、自己啓発的な内容の「大人向け」の寓話があることを知り、何冊か、話題になった作品を読んできました。

しかしピンとこない作品が続いたこともあり、ここ何年か、読まないでいました。
この本は日本人の著者が書いているということと、「ほんとうの自分に出会う」というタイトルに興味を持ち、Audibleで聴くことにしました。

主人公は、犬のジョン。

彼はご主人様(人間)が撃った獲物にいち早く駆けてつけとどめを刺す、優秀な猟犬です。
猟犬チームのリーダーに選ばれている彼は、狩猟ではご主人様に褒められ、毎日ちゃんと与えられるご飯を食べて、満ち足りた生活をしています。

しかしある日、獲物に駆けつけると、獲物である大きな狼に、次のようなことを言われます。

「俺たちは、誰かに飼われるために生きているのではない。俺たちの本質は、自由だ」

その言葉が心に残った、ジョン。
今の生活を捨てるかどうか悩んだ末、「自由」を得るための旅に出ます。

自由が得られるという聖地・ハイランドを目指すジョン。
彼が途中で遭遇する困難と、その経験からの学びが、時代も国も設定されていない世界の中で、描写されていきます。

ジョンが味わう困難を、自らの経験や現状と重ね合わせ、ジョンが得る学びを、実感を伴って吸収する。
そのような読み方が想定された本かと思います。

特に印象に残ったのは、自分という存在を、以下の3つの要素で説明していることです。
・身体
・エゴ
・魂

自分自身に当てはめて、エゴと身体、エゴと魂の区分けがわからない部分はありました。
しかし、「いま考えていることは、3つのうちどの自分が言っているのだろう?」と考えることで、自分が採ろうとしている選択が長期的に見て正しいか、冷静に判断できるようになりそうだと、気づかせてもらいました。

そして本書で定義されている3つの「生きる価値」も、(これまで読んだ自己啓発本と異なる部分があり、意外に感じましたが)自分が漠然と感じていたことを言語化してもらえたように感じました。

終盤については、ジョンがなぜ気づくことが出来たのか、どうしたら自分もその気づきが得られるか、しっかり理解することはできませんでした。
そのようなことも含めておそらく、読者の人生・読書の経験によって、理解や同意できる範囲が大きく変わる本ではないかと思います。

自分自身は(理解出来た範囲で)複数の学びが得られたので、「読んで良かった」と思えました。
過去に読んだ寓話も、年月を経て読むと、違った感想や学びがあるかもしれませんね。

寓話や自己啓発本に対する認識を変えてもらえたという意味でも、印象に残った一冊でした。
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2024年3月4日

読書状況 読み終わった [2024年3月4日]
カテゴリ 自己啓発

芥川賞とともに、歴史と影響力のある文学賞、直木賞。
受賞作品を読んでみるとたしかに、心に響くものがあるなあと、感じます。

『黒牢城』
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/B095BQ7SZ5

『星落ちて、なお』
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/B094HZY84B

その直木賞を2019年度下半期に受賞したのが、この作品。
アイヌを題材にしているということにも興味を持ち、Audibleで聴いてみることにしました。

物語は19世紀の終盤、北海道の石狩川沿いを舞台に始まります。
樺太で生まれたアイヌの少年、ヤヨマネフク。
日本とロシアによる樺太の領有権争いの影響を受けて、彼は幼少期に北海道に移住させられます。
そこで和人(日本人)の教育を受ける、ヤヨマネフク少年。
移住させられたアイヌの人々は、この地を開墾し、漁をして、生計を立てようとします。
しかし、この地の気候の厳しさと、日本という国に押し寄せる「文明」の波に、厳しい生活を強いられます。

いっぽう、ポーランドで生まれながら、ロシアにより母国語を禁じられ、ロシアで暮らす大学生、ブロニスワフ。
政治犯として捕らえられた彼は、樺太に流刑となってしまいます。
希望のない生活の中で彼は、樺太に住むギリヤークの人々と交流を持ち、彼らの生活を記録し始めます。

序盤では別々に記述されていく、ヤヨマネフクとブロニスワフの日常。
彼らはどのような人生を歩むのか、二人の人生はどのように交わるのか・・・。

二人とその関係者の、数奇な運命を追体験するように読むのが、本書の味わい方かと思います。

それと並行して、明治維新から第二次世界大戦にかけての期間、ロシアと日本の間で国境線が何度も変えられた樺太という島、そして樺太に住む人々がどのような経験をしたのか、(フィクションの世界ですが)学ばせてもらいました。

この地域の歴史について、これまであまり学んでこなかったので、「このようなことが起こっていたのか」と驚いてしまったというのが、正直な感想です。

・文明とは何か?
・その文明により、人間は幸せに暮らせるようになったのか?
・文明国になるということは、弱肉強食の世界に入るということなのか?
・教育は必要なのか? 教育されることと文明に組み込まれることの違いは何か?
・優れた民族、劣った民族というのはいるのか? いたとして、優れた民族は劣った民族を滅ぼして良いのか?

文明、国、民族などについて、いろいろと考えさせてもらえる内容でした。

作中には伊藤博文や金田一京助など、この時代の「有名人」が登場します。
フィクションの人物と歴史上の人物を組み合わせた作品、と思ったのですが、主人公の二人も、実在の人物だったのですね。
歴史の波に埋もれてしまいそうな事件、人物を、「大河ドラマ」的な時間、空間のスケールで織り上げた作品で、直木賞を受賞したのももっともだな、と感じました。

受賞後も話題作を発表しているようなので、この作家さんには今後も、注目していきたいと思います。
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2024年2月26日

読書状況 読み終わった [2024年2月26日]
カテゴリ 歴史・時代小説

年齢を重ねるにつれて、健康であることの重要性を実感しています。
関連する書籍をこれまでも読んできたのですが、新しい知見が見出され、古い知見が否定されることもあるので、話題になった新作は読むようにしています。

この本は、題名に「大全」という文字が入っていることから、健康に関して網羅的に書かれているだろうと期待して、読んでみることにしました。

本書は全8章で、構成されています。

第1章は、エビデンスについて。
冒頭に「エビデンスのピラミッド」の図が掲載されています。
健康についての情報は玉石混交だなあと思っていたのですが、この図を思い出して、信用するかどうかを決めていきたいと思います。

第2章は行動、第3章は習慣について。
生活している環境の影響については、これまで読んだ本でも紹介されていましたが、本書で紹介されている鉄道駅密度と1日平均歩数のグラフを見て、「馬鹿にできないレベルだな」と再認識しました。
また、やめたいと思っていることをなかなか断ち切れないでいるので、本書に書かれている進め方を、試してみたいと思います。

第4章は食事について。
何を食べたら健康に良いのか、悪いのかというのを統計的に示すのは難しいのだと理解しました。
その中で、赤肉と加工肉、そして糖類、アルコールなどが、「摂取しない方が良い」、「摂取するとしたら何g以下にすべき」とされていることは、重く受け止めたいと思います。
また、サプリメントについては、これまで読んだ本の中でも否定的に書かれていたので、向き合い方を見直したいと思います。

第5章は運動について。
第6章は睡眠について。
これらについては、専門に書かれた本を何冊か読んできたので、書かれていたことの裏付けを得られたように感じました。

第8章はストレスについて。
第9章は感情について。
本書を読む前は、これらを健康と結びつけて考えていなかったので、新たな視点を持つことができました。
自分自身、「〜は健康に良い」という知識は持っていても、感情(欲望?)に流されて、反対の行動をしてしまうことがあると自覚していました。
誇り、幸せ、恥といった感情が、どのような行動を取らせるかも教えてもらったので、客観的に自分の感情を観察して、行動を選択するようにしたいと思います。

読み終えて、「題名の通り、健康に対して網羅的な視点を与えてくれる本だなあ」という感想を持ちました。
読んだ人には何かしら、自らの行動を変えるきっかけになる部分があると思います。
自分自身、本書を読んでいる途中で、「やってみよう」と始めたものがいくつかありました。
また、本書の中で興味を持った分野について、より詳しく書かれた書籍を読む、という使い方もできるかと思います。

海外で発表されたものが翻訳された、と思って読み始めたのですが、日本人が書いた本なのですね(個人的には嬉しい)。
この本を読んで実践し始めたことが習慣になるように、まずは取り組んでいきたいと思います。

続けられていないな、健康に対する意識が下がっているな、と感じた時は、また本書を読み返したいと思います。
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2024年2月19日

読書状況 読み終わった [2024年2月19日]
カテゴリ 健康

健康関連の本を読むようになって、加工食品がどのように作られているか、どのような添加物が含まれているか、気になるようになりました。

その食品添加物について、食品加工工場に使用を指南していた著者が書いた書籍をAudibleで聴いて、入れられている食品の幅広さと、使用されている添加物の不気味さを、知ることができました。

『食品の裏側』
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/B00D6AI6FC

同じ著者が、”実態編”と名付けた第2弾を発表していると知り、こちらもAudibleで聴くことにしました。

本書は9章で構成されています。
序盤は、日本人が食べている食品にどれだけ、添加物が使われているかについて。
前著と重複する部分もありましたが、廃棄物に近い食材を「安くて美味しい」食品に仕立ててしまう食品添加物のすごさと怖さを、あらためて認識しました。

ビール"風"飲料はこれまでなんとなく、避けていたのですが、本書を読んで「このまま飲まないでおこう」と思いました。
また、日本で使用が許可されている食品添加物が増えていること、その背景として海外からの輸入食品の増加があることは、心に留めておこうと思います。

中盤は、食品添加物の危険性について。
前著を聴いて、「もっと知りたい」と思っていたので、回答を提示してもらえたように感じました。
食品添加物そのものの原材料を知ってしまうと、口にしたいとは思わなくなりますね。
また、食品に含まれる塩分、油分、糖分の表記については、「わざと分かりづらくしているのでは?」と疑ってしまいました。

終盤は、日本人の食事に関わる問題点と、「では、どうしたら良いか」について。
自然の産物である野菜や魚に対して、形や色の良さ、均一性を求める。
野菜に虫がついていることを、極度に嫌がる。
日本人のこれらの志向が、食材にプラスアルファの加工をしてしまう要因の一つになっているのですね。
虫がついていない野菜、カットされているのに変色しない野菜はどのような経路を経て自分の口に入るのか、考えるようにしたいと思います。

全体を通じて、前著よりも、食品添加物以外の話題に割かれているページが多いように感じました。
(それだけ著者は、日本人の食に問題があると、主張したいのだと理解しました)
そして食品添加物がどのように使われているかについては、前著と重複する部分も見受けられました。

それでも、食品添加物の製法とその危険性、そして前著にはなかった加工食品の製法などを読んで、この分野の知識を増やすことができました。

しばらくは、スーパーやコンビニで食品を買う時、原材料名をチェックする時間が長くなりそうです。
時間が経つと”易きに流れて”しまうので、食に関する本は今後も、意識して読んでいきたいと思います。
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2024年2月5日

読書状況 読み終わった [2024年2月5日]
カテゴリ 健康

睡眠、運動と並んで、健康を大きく左右する、「食事」。
どのような物をどれだけ食べれば良いか、どのような物を食べてはいけないか。
新たな常識が生まれ、以前の常識が非常識になる分野なので、断続的に、関連書籍を読むようにしています。

『食品の裏側』
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/B00D6AI6FC

この本は、インパクトのあるタイトルが以前から気になっていましたが、Audibleにラインアップされていることを知ったので、聴くことにしました。

著者の二人は、昆虫学者とのこと。
昆虫がどのような栄養を摂っているかについて研究していたところ、大きな知見が得られたため、本書を執筆したようです。

本書の前半では、昆虫を始めとする動物がどのような栄養を摂取しているか、著者たちの研究の成果が紹介されています。

その研究から見出されたのは、動物たちは自らの生存に必要な栄養を、必要な量だけ摂取している、ということ。
例えばクモは、獲物を溶かして栄養を吸い取りますが、それまでの栄養摂取状況に応じて、吸い取る栄養分の比率を変えているそうです。

中盤は「では、人間はどうか」について。

ポイントとなるのは、タンパク質の摂取量とのこと。
では、タンパク質の割合が高い食事を摂れば、健康的な生活を送れるのか?と思って聴き進めたのですが、どうやらそうではないらしい、と理解しました。
また、タンパク質、炭水化物、脂肪をどのような割合で摂取すると良いかについては、「長生きしたい」か、「子孫を残したい」かで変わるということも、興味深く聴きました。

終盤は、人類が直面している、食環境の変化について。
著者は、急速に普及している「超加工食品」の問題を指摘しています。
加工食品については、その多くに食品添加物が使用されていることもあり、なるべく食べないようにしたいと思っていました。
本書を読んで、栄養バランスの面からも避けた方が良いことを知ったので、今後の食生活に反映していきたいと思います。

全体を通じてまずは、さまざまな生物が、自らに必要な栄養を必要なだけ摂るように、食事をコントロールしているということに驚きました。
野生生物は成り行きで食べている割合が大きいと思っていたのですが、食欲という本能は、何をどれだけ食べるべきかを、かなり正確に摂食行動に反映させているのですね。

そして人間は、タンパク質の摂取量がポイントとなること、しかし、炭水化物と脂肪の割合も加味して摂る必要があるということを、本書に出会って初めて知りました。
では何を食べたら良いか?については、本書の指南は項目が多くて正直、理解できない部分がありました。
まずは、自分の食事の中での、超加工食品の割合を下げていきたいと思います。
そして上記の基本ルールを念頭に置いて、自分が何をどれだけ食べているか、目標(健康で長生き)に向けてどう見直したらよいか、考えていきたいと思います。

食事に関しては、これまでもたくさんの研究が行われてきたと思いますが、このような基本的な知見が新たに、見出されるということがあるのですね。
その知見が、昆虫学者という、異分野の研究者から掘り出されたというのも、面白いなと思いました。

サイエンス系読み物としても、自らの食事を見直すための実用書としても興味深い内容だった、聴き応えのある一冊でした。
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2024年1月29日

読書状況 読み終わった [2024年1月29日]
カテゴリ 健康

コンビニやスーパーで購入でき、すぐに食べられる加工食品。
便利なので利用する頻度が高いのですが、気になるのはその安全性。

Audibleのラインアップを見ていたところ、自分の疑問に答えてくれそうな本があることを知り、聴くことにしました。

まず「はじめに」で著者は、自分が食品添加物専門の商社にて、営業担当をしていたという経歴を“告白”しています。

食品加工工場に、添加物の導入アドバイスをしていた、当時の著者。
事例を聴いて、導入する側の工場は、食品を加工するにあたっての「困りごと」を克服するために、添加物を使用する場合が多いということを理解しました。

しかし、その現場を知る工場関係者は、自社の食品を買わない場合が多いとのこと。
「やっぱりそうか」という思いと、「そこまでなのか」という驚きの両方を感じてしまいました。

第1章は、食品添加物が特に多く使用されている食品について。
漬物は野菜ということもあり、健康的なイメージがあったのですが、認識を改める必要があることを、教えてもらいました。
特に「減塩」と書かれたものを選ぶのは、止めようと思います。

第2章は、家庭の食事のベースとなる、調味料について。
しょう油の問題については、以前読んだ本で知識はありました。
しかし最近、しょう油のラベルを確認するのを怠っていたので、あらためて確認するようにしたいと思います。

第3章から5章にかけては、日常で口にすることが多い食品添加物について。
表示が免除される場合が思ったよりも多いこと、そして、「一括表示」が認められていることで、ラベルを見た時に「大丈夫そうだ」と“錯覚”させられている、ということは、記憶に留めておきたいです。
全ての食品添加物の製造工程を理解することは不可能ですが、ラベルを読んで、その食品がどのように作られたか、想像するようにしたいなと思いました。

第6章は、「では、食品添加物とどう向き合うか」について。
自分の生活の中で、食品添加物をゼロにすることは、現実的ではないと実感しています。
とはいえ、無頓着に摂取して良いものではないと、本書を読んで改めて感じました。
自分がどれだけ、食品添加物を含む加工食品を口にしているか、それは1週間の食事のどのくらいの割合を占めているか、意識していきたいと思います。

最後まで聴いて驚いたのですが、本書が出版されたのは2005年だったのですね。
それから年月が経過していますが、食品添加物に関する関心は、それほど盛り上がっていないように思えます。
著者が指摘しているように、食品添加物に関する情報の公開が不透明なことが、その一因になっているのでしょうね。

本書の続編も発表されているようなので、Audibleで探して、聴いてみたいと思います。
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2024年1月22日

読書状況 読み終わった [2024年1月22日]
カテゴリ 健康

生物全般に関する知識を得たいと、関連する書籍を探しています。
難しい内容だと挫折してしまいそうなので、読み物として楽しめそうなものを選んでいた所、この本に出会いました。

地球上で繁栄した生物の変遷について、地球が誕生した46億年前から現在、さらには未来まで、時系列で12の章に分けて、解説しています。

第1章は地球の誕生、生命の誕生について。
「生命が誕生したのは、深海の高温水噴出口だった」という説が、現在では一般的なのですね。

第2章は、現在の主要な動物群のほぼ全てが誕生したという、約5億年前の「カンブリア爆発」について。
第3章は、脊椎動物の誕生について。
様々な動物が誕生し、その中の一系統が、現在のわれわれ人間などの脊椎動物につながっている、と理解しました。

第4章、第5章は、脊椎動物の陸上への進出について。
四本足というのは動物が陸上に上がってから出来た、と思っていたのですが、そうではなかったのですね。
陸上への進出については、植物と節足動物が先行し、その後に脊椎動物だったということも、しっかり認識しておきたいと思います。
そして、脊椎動物が陸上に進出してきたタイミングで(約2億6千年前)、地殻変動による大量絶滅が起こっていたということも、記憶に留めておきたいと思います。

第6章、第7章は、は虫類の多様化と、その中で圧倒的な存在となった恐竜について。
恐竜が二足歩行に適した体の構造を持っていたということは、本書に出会って初めて認識することができました。
また、呼吸の仕組みは哺乳類以上に、体温を調節するのに適していたこと、卵を産むという繁殖方法も、恐竜が繁栄した理由として挙げられていることも、印象に残りました。

第8章は、ほ乳類の繁栄について。
恐竜が絶滅した環境の中でなぜ、ほ乳類が繁栄したのか、はっきりとは分からなかったのですが、恐竜絶滅時には現在以上に、バラエティーに富んだほ乳類がいたのですね。
咀嚼できること、夜から朝にかけて活動できることが、恐竜とのすみ分けに寄与した、と理解しました。

第9章から第11章は、われわれ人類につながる類人猿の進化について。
人間の二足歩行はかなり、身体にとって無理がある動きだということ、そしてなぜ二足歩行をするようになったか、説得力のある説明がまだないということが、印象に残りました。
また、人類がどのように世界中に広まっていったかについて、あやふやに理解していたのですが、第10章、第11章を読んでようやく、時系列で頭の中を整理することができました。

第12章は、人類および地球の未来について。
人間が絶滅するとしたら、その時の地球はどのような状況になっているのだろう?と、考えさせてもらいました。

全体を通じて、まずは時間軸のスケールの大きさに、圧倒されました。
しかし個々の説明がおおざっぱという印象はなく、専門的だなあと感じる部分もありました。

とはいえ難解すぎるということもなく、地球という惑星で生物がどのように誕生し、その中で、われわれ人類につながる系統がどのように進化してきたのかという流れで説明されているので、素人の自分にも理解することができました。

”生命全体の歴史”という内容を期待して読むと、たとえば植物や鳥類がどのように進化してきたかなどは、要点が説明されているレベル、というところかと思います。
億年単位という時間軸で考える、という視点の面白さを教えてもらったので、自分が興味のある生物の進化について、同じように解説している書籍がないか、探して読んでみたいと思います。
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2024年1月15日

読書状況 読み終わった [2024年1月15日]
カテゴリ サイエンス

資本主義、そして民主主義が弱体化しているという議論を、多く耳にするようになりました。

この点については以前、1980年代生まれの学者が発表した本が話題になっていたので、Audibleで聴きました。

『22世紀の民主主義』
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/B0B2JB33TN

本書の著者も、1987年生まれで資本主義に関する話題書を発表している学者、とのこと。
どのような内容なのか興味があったので、Audibleで聴いてみることにしました。

冒頭で著者は、実体験を得ることで学者としての研究に厚みを持ちたかった、という背景を紹介しています。
その上で、世界で起こっている各種社会問題について、著者自身が経験したこと、関係者に取材したことからの学び、考察が記述されています。

対象としている社会問題は、表題になっているものだけでなく、多岐にわたります。
まずは、「これだけ多くの社会問題に、関心を持っているのか」と、率直に驚いてしまいました。

新聞連載を書籍にまとめたようで、1分野についての記述は短めです。
もっと深く考察すべきではないか、と思わないでもなかったのですが、数多くの分野に関わって、俯瞰した視点で考察する、という意図があったのだろうと、推察しました。

“あとがきに代えて”によると、著者は資本主義および環境問題の専門家のようですね。
本書で取り上げられている社会問題も、大きくカテゴライズすると、著者の専門分野に関するものが中心になっています。

しかし著者は、今回の連載を通じて接した社会問題について、これまでの自らの不勉強を恥じています。
そして、これらの社会問題に気づかない、動かない人について、「マジョリティ側の視点に立っている」、「思考停止している」と、批判しています。

この点については近年、「何か問題、話題になったことに対しコメントしないと、容認していることになる」という風潮と同質なものを、感じてしまいました。
社会を変革しようと考えている人の側から見ると、大多数の”動かない人”を動かすというのは、それだけ大変なことなのでしょうね。

自分自身は正直、本書で取り上げられているすべての問題について、考える能力、余裕はないと思いました。
ただし、培養肉に対する違和感など、著者の視点に共感する部分もあり、また、環境問題の中には、もっと理解を深めたいと思うものもありました。

現在起こっている社会問題にはどのようなものがあるのか、視野を広げてもらった、そして、数多くある社会問題に対して、自分がどのようなスタンスで応じるかということを考えさせてもらったという意味で、印象に残った一冊でした。
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2024年1月8日

読書状況 読み終わった [2024年1月8日]
カテゴリ 国際人

2023年はNHK大河ドラマの主人公が徳川家康だったこともあり、家康や徳川家に関する本が多く出版されました。
この本は、徳川15代の中で、自分があまり知らない将軍のことを学べるかなと思い、Audibleで聴いてみることにしました。

初代家康から15代慶喜までの15人の将軍について、生い立ちや功績を紹介し、最後に「通信簿」のように5項目-5段階で評価しています。

2代秀忠については、“大御所”家康の言いなり将軍、という印象がありましたが、江戸の町を整備するなど、内政面で功績を残しているのですね。

6代家宣、7代家継については正直、事前知識はほぼありませんでした。
将軍在任期間は短かったものの、おおむね善政が行われた期間だったというのは意外に感じました。
それだけ5代綱吉の治世に問題があり、また江戸幕府の統治機構が機能していたということなのですね。

8代吉宗については、幕府を立て直したという印象を持っていたのですが、本書によれば農民に対する施策は厳しいものがあったとのこと。
その影響で9代家重、10代家治の時代は一揆への対応に苦慮したこと、農業と商業どちらを重視するかで幕府の方針が揺れ動いたという点が、印象に残りました。

14代家茂については毒殺されたという説もある、ということが頭に残っていました。
もともと体質が弱かった上に、3代家光以来の上洛、遠征といった疲労が重なった、という本書の説明で、認識を改めることができました。

後半、特に“マイナー”な将軍については、将軍を支えた側近、およびその時代の情勢についての説明に、多くの字数が割かれています。
個人的にはもう少し、将軍個人についての説明も欲しいなと感じました。
それだけ、マイナーな将軍については、資料や記録が少ないのでしょうね。

とはいえ、約260年続いた徳川政権において、各将軍の時代にどのようなことが起こったか、後世にどのような影響を与えたかを理解する入門書として、本書は活用できると思います。
自分自身、知識の薄い時代がどこなのか、おさらいすることが出来たので、関連する書籍を探して、さらに学んでいきたいと思います。
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2024年1月4日

読書状況 読み終わった [2024年1月4日]
カテゴリ 日本史

新型コロナウィルスの世界的蔓延、そしてロシアによるウクライナ侵攻。
これら大きな世界情勢の変化が起こった、2020年代初頭。
その動きに連動するように、約30年間、ほぼ変化がなかった日本の物価が上がってきたと、実感しています。

どのようなカラクリなのか勉強したいと思い、関連する本を以前も読みました。

『世界インフレの謎』
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/B0BHWGDRRJ

もう少し勉強したいと思っていたところ、戦争と関連付けて説明していると思われるこの本の存在を知ったので、Audibleで聴いてみることにしました。

本書は全五章で構成されています。

第一章で著者はまず、ロシアによるウクライナ侵攻により、アメリカが数十年間主導してきたグローバリゼーションは、終焉を迎えたと説いています。
アメリカはその問題に気づき、2010年代中盤から軌道修正しようとしてきた。
しかし日本は、2010年代を通じて、グローバリゼーションを前提にした施策を進め続けてきたと、当時の自民党安倍政権の施策を批判しています。

第二章は、インフレが起こるしくみについて。
インフレは主に、以下の二つのタイプに分かれると説明しています。
・ デマンドプル・インフレ:需要過剰で物価が上昇
・ コストプッシュ・インフレ:供給減少で物価が上昇
それぞれ原因が異なるため、対策は違ってくる。
資本主義経済であれば、”マイルドな”デマンドプル・インフレの状態(年数%の物価上昇)が望ましい。
総需要曲線と総供給曲線を用いた説明は、わかりやすいと感じました。

第三章では、第二次世界大戦後にアメリカで発生したインフレを分析し、今回のインフレのメカニズムを解説しています。
今回のインフレの発生要因を踏まえると、アメリカFRBが実施した急激な利上げ施策は間違いである、と指摘しています。
どのような対策を採用するかについては、経済の安定化だけでなく、階級間のパワーバランスも影響するのですね。
その是非はともかく、対策の選定・評価は一筋縄ではいかないものなのだと理解しました。

第四章は、今回のインフレや、インフレ対策を考える上での経済理論の説明。
この章を読んで、著者が説いているのは、しばらく前に“異端の”経済理論として話題になったものであることに、気づきました。
どのような理論なのかを学ぶ、良い機会になりました。
理論のベースになっている、銀行が企業に貸付を行う際の貨幣の“出どころ”について、どう考えるかで、この理論を受け入れるかどうか分かれるのだろうなと思いました。

第五章は、では今後、世界の経済はどうなるか、について。
国際的な経済競争という局面から、安全保障を踏まえた各国(もしくはブロック)の産業体制の構築へ、という流れ。
少なくとも今後数十年は続くのだろうなと、受け取りました。

グローバル化の今後の見通しと、第四章に書かれている貨幣に対する考え方の部分をどう受け取るかで、この本に対する評価は大きく変わってくると思います。
個人的には、グローバル化は後退する局面はあるものの、長期的には進んでいくのだろうなと思っています。
アメリカや欧州が利上げをする中、日銀は利上げしない方針を続けてきましたが、ひょっとしたら、本書に書かれているような前提で動いているかも?と、素人なりに推測したりもしました。

経済の状況について、著者により切り口や見通しがかなり異なることも解りました。
もう少し別の著者の本も読んで、自分なりの考えを持てるようにしたいと思います。
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2023年12月25日

読書状況 読み終わった [2023年12月25日]
カテゴリ 国際人

デジタル技術の発達やSNSの普及に伴い、フェイクニュースと呼ばれる偽情報の蔓延が、問題視されるようになってきました。
また、ロシアによるウクライナ侵攻もあり、日本周辺の各国の動きも、活発になっています。
誤った情報に振り回されず、状況を理解して自分の行動を決めたいと思い、関連する書籍を探して読んでいます。

この本は、国と国の競争・争いに関する情報を、自らの身を危険に晒して収集・分析している諜報員のスキルを題材にしたビジネス書。
特に情報の取捨選択について、学びが得られることを期待して、Audibleで聴くことにしました。
著者は元、防衛省情報分析官とのこと。

本書は全6章で構成されています。

まず第1章で、諜報員はどのような活動を行っているのか、どのような訓練を受けてどのような能力を持っているのかを紹介しています。
そして諜報員が持つ能力の中から、ビジネスパーソンに役立つものを抽出して、第2章以降に解説しています。

第2章は、情報収集能力について。
フェイクニュースへの対処方法について、特に興味を持って読みました。
感情を揺さぶられるような情報に接した場合は、飛び付かず、確認することを心がけたいと思います。

第3章は、人心掌握術。
“本命”の人にいきなりアプローチしない、本当に聞きたいことは、雑談の中に混ぜる。
ビジネスなど、一般のコミュニケーションにも当てはまるのかな? と感じる部分はありました。
しかし日常生活においても、欲しい情報を得るのが難しい時もあるので、参考にしたいと思います。

第4章は記憶術について。
自分自身、記憶することは諦めて、メモをとろうと思っているのですが、洋の東西を問わず、さまざまな記憶法が実践されてきたのですね。

第5章は、得た情報を分析し、使えるものにする能力について。
「AかBか?」を予測するのではなく、どちらになったとしても対応できるように準備すること。
また、時系列に整理する「クロノジー分析」なども、使ってみたいと思いました。

第6章は、困難な状況でも、冷静に対応できる能力について。
”怖いもの知らず”というタイプは諜報員のチームから外される、という話は、意外に感じました。
チームで重要な仕事を行うにあたって、どのような人を選ぶべきか?という視点で考えると、「そうかもしれないな」と思いました。

全体を通じて、ビジネスに応用できるスキルの説明については、他のビジネス書と重複する部分もあるように感じました。
それだけ、軍事分野で誕生、発達したものが、ビジネスの世界に転用されている、ということなのでしょうね。

世の中に溢れる情報を、どのように取捨選択するか、そこから何を見出し、どう行動するか。
これらのノウハウは、今後ますます、必要になりそうですね。

個人的には、諜報員という、非日常的な存在の人たちがどのように考え、行動しているかという部分を、興味深く読みました。
“諜報員”、“スパイ”に関する書籍は、読み物としても面白いということがわかったので、類書があればまた読んでみたいと思います。
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2023年12月18日

読書状況 読み終わった [2023年12月18日]
カテゴリ 仕事術

歴史小説、時代小説が好きで、長年読み続けています。
しばらく間が空いたのですが、「これまで読んだことのない作家さんの作品を読もう」と思っていたところ、この作品のことを知りました。
江戸時代を舞台に、歴史上の有名人が登場するのではない小説、という程度の認識で、読み始めました。

芝居小屋がある、江戸の木挽町が舞台になっています。
そして、その芝居小屋のすぐ近くで、仇討ち事件が起きます。

この仇討を成し遂げたのは、若い武士。
その縁者と名乗る人物が、目撃者たちに話を聞いて回るという設定で、話が進んでいきます。
武士が目撃者に聞いているのは、主に以下の二点。
・どのような事件だったのか
・目撃していたあなたは、どのような人生を歩んできたのか

事件のあらましは冒頭に書かれているので、なぜ、この武士はこの事件のことを聞いて回っているのだろう、なぜ、目撃者たちの生い立ちを聞いているのだろう?と不思議に思いながら、読み進めました。

これらの疑問にどう、作者が応えるのか?というのが、本作品の読みどころだと思います。

さまざまな境遇の人が“流れ着いて”、それぞれの能力を生かして舞台を作り上げ、演目を披露する芝居小屋。
登場人物たちの生い立ちを読んで、以下のようなことを考えました。

・身分の違いが重視された江戸時代、低く見られた身分の人はもちろん、身分が高くて恵まれていると思われた人でも、人生の悩みというものはあった
・自らが苦しみを味わった人だからこそ、他人の苦しみや苦労を理解でき、手を差し伸べることができる

江戸時代の、それも歴史の表舞台には登場しない庶民の生活が描かれていますが、違和感なく読み進めることができました。
この時代のことをずいぶん、調査・研究してきた作家さんなのでしょうね。

多くの時代小説を発表してきている作家さんのようなので、他の作品も探して読んでみたいと思います。
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2023年12月11日

Audibleを利用するようになって、小説を楽しむ機会が増えました。

「読んだことのない作家の作品を読もう」と思い、Audibleのラインアップを探していたところ、2022年に芥川賞を受賞したこの作品がリストに載っていたので、どんな内容の作品かもわからないまま、聴き始めました。

舞台は大きな会社の、営業支店。

仕事の後に飲みに行った、20代後半の男女二人。
女性社員の押尾は、先輩である男性社員、二谷に、別の女性社員、芦川への不満を言います。
その不満とは、「芦川さんはすぐに、体調が悪いと仕事を休んでしまう。職場の皆は同情し、仕事を代わって引き受けているが、それはずるい」というもの。

無理をせず、できないことは出来ないといい、人に任せてしまう、芦川。
しんどくても我慢して、他の人の分も引き受けてしまう、押尾。
仕事への考え方、行動が根本から違う、二人の女性社員。

一方で、「美味しいものを食べたいがために、自分の行動が制約されるのは嫌だ」と、カップラーメンをすする二谷。
それに対し、自ら料理を作りそれを食べるという、「ちゃんとした」食生活をしている、芦川。

仕事と食という、生活の根幹をなす部分で、価値観の違う二組。
そんな同年代3人の不思議な関係が、描かれていきます。

「この人たちの関係は、この先どうなるのだろう?」と気になって、どんどん聴き進めました。

そして、作中で描かれる人間関係、それぞれの登場人物が発する言葉などに、小説らしい、もやもやした感情を掻き立てられました。

・価値観の違う相手と仲良くできるものか?自分は価値観の違う相手にどう、接しているだろう?
・食事を大切にする/おろそかにする、ということはどういうことなのか?
・自分が出来ないことは出来ない、と言うべきか?そのことで誰かがとばっちりを受けると分かっていても?
・”良い人”は大切にされるべきか?その人が周りに迷惑をかけていても?

ストーリー展開を楽しみたい読者には、物足りなく感じる部分があるかもしれません。
でも、「こういうこともあるよね」ということに気づかせてもらう、その感情を味わわせてもらうという意味で、小説らしい小説だなあと、感じました。

二谷の行動と考え方に、同じ男性として理解できないことが多々あったのは、年代の違いなのか?それとも二谷は同年代でも”変わった人”という設定なのか?

作者は、この作品の登場人物たちの少し後の年齢の時に、この小説を発表したようですね。
この年代の人たちの感性にもう少し触れたいと思ったので、この作家さんの作品を探して読んでみようと思います。
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2023年12月4日

読書状況 読み終わった [2023年12月4日]
カテゴリ 小説

さいきん、生物に関する本を何冊か読んで、この分野で新たな知見が次々と見出されていることを知りました。

『昆虫学者、奇跡の図鑑を作る』
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/B0BF41DSZ6

『これからの時代を生き抜くための生物学入門』
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/B08JV1LBN1

『生物はなぜ死ぬのか』
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/B091PTTHVM

興味が高まったので、関連する本をさらに読もうと思い書店で探したところ、このタイトルが目に留まりました。

『NHKスペシャル』で放映されたシリーズを、書籍化したものだそうです。
このテレビ番組は視聴しなかったのですが、「(テレビなので)興味をそそられるテーマを、わかりやすく紹介しているだろう」と期待して、読んでみることにしました。

地球に住む生物の中から3つを取り上げ、3章にわけて、最新の研究成果を紹介しています。

第1章は植物について。
ずいぶん前に、「クラシック音楽を聴かせた野菜は育ちが良い」という話を聞いたことがありました。
この章に載せられた最新の研究結果を読んで、植物は音に限らず、人間が感じることが出来ないものも含め、外界の情報を取り込み、対処しているのだ、と知ることができました。
植物に対する見方が大きく変わる、想像以上の内容でした。

第2章は昆虫について。
サナギの中では、どうのようなことが起こっているのか?
小耳には挟んでいたのですが、詳しい解説を読んだのは、本書が初めてでした。
昆虫がなぜ“完全変態”ができるようになったのか? 生物の進化というのは不思議だなと思いました。
また、体は小さくても数が多い昆虫という存在が、広い地域の環境や人間生活に影響を与えているという話も、興味深く読ませていただきました。

第3章は微生物について。
プラスチックを分解するなど、特殊な能力を持つ微生物の探索・研究が、ずいぶん進んでいることに驚きました。
ただし人間社会への活用については、デメリットの検証も含め、まだ乗り越えるべき壁がありそうですね。
人間の細胞の数よりも、人間の体内にいる微生物の数のほうが多い。
自分の意思で選択したと思った行動が実は、微生物の影響を受けていた可能性もある。
これらのことを知ってしまうと、”自分”さらには”個体”という概念すら、考え直さなければいけないように感じました。

新しい技術の活用もあり、生物に関する研究がかなり進んできているということを、本書を読んで再認識しました。
これまで人間には見えていなかっただけで、植物、昆虫、微生物たちは驚くべき"能力"を、持っているのですね。

「人間が進化の頂点にいる」という考えは、改めなければならない。
様々な生物が相互に影響しあっている中で、種を大量に絶滅させているという人類のふるまいは、取り返しのつかない結果を生む可能性がある。
本書のメッセージは強く印象に残りましたし、多くの人が共有すべきことだとも思いました。

ますます興味が高まったので、この分野の本は今後も継続して、読んでいこうと思います。
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2023年11月29日

読書状況 読み終わった [2023年11月29日]
カテゴリ サイエンス

がんとはどのような病気なのか、どうしたら治せるのか。
がんに対する取り組みの歴史をまとめたサイエンス書の、下巻です。

下巻は第4部から第6部までの、3部構成になっています。

第4部で多くのページが割かれているのは、予防医学について。
がんに対して予防医学の考えが実行に移されてきたのは、20世紀半ばからなのですね。

各種データで、「相関あり」と報告されている、肺がん罹患と喫煙の習慣。
巨大な市場を持つタバコ産業を、守ろうとする企業。
多くの国民がタバコを吸っており、警告を発する側の医師も、喫煙率が高かったという状況。
喫煙率低下を実現するまでに、アメリカでは長い年月を要したのですね。
“事実”だけで社会を動かすことの難しさを感じました。

第5部は、がん発生・増殖のメカニズムの研究について。
がんは何がきっかけで発生するのか、どのように増殖するのか。
がんの正体を知るということは非常に難しく、「わかった」と思ったら、それはゴールではなかった・・・の繰り返し。
しかしその過程で知見が蓄積されて、徐々にがんの発生・増殖のメカニズムが解明されてきたのだと理解しました。

がんという病気の「難しさ」は、以下のような点にあると、自分なりに解釈しました。
・がん細胞の基となる炎症を起こすスイッチ、がん細胞を増やすスイッチ、がん細胞の増加の抑制機能を切るスイッチ・・・これら(以外のものもある)が組み合わさって初めて、がん細胞は人体への脅威となる
・上記のスイッチのいくつかは、正常細胞の中にあり、探すのも困難、スイッチを機能させないのも困難

第6部は、本書が書かれた2010年時点での、がん治療・予防の最新状況。
どれか一つの対策が、がん全般に対して決定的な効果を生み出せているわけではない。
とはいえ、これまで人類が見出し蓄積してきた予防・治療の各種知見は、無駄・無効なのではなく、それぞれが成果を挙げている。
このような状況になっているのは、第5部で解説されていた、がん細胞の発生・増殖のメカニズムの複雑さによるものなのだろう、と受け取りました。

全体を通じてまず感じたのは、「がんという病気は、複雑で難しいものなのだなあ」ということ。
身体のあらゆる箇所に現れ、共通する特徴はあるものの、発生し増殖するプロセスは身体部位によって異なる。
症例の多いものから研究が進み、その中でプロセスの解明が進んでいるものについては、効果的な治療が見つかり実践されている。
でも、そうでないものについてはいまだ、治療するのが難しい。
本書が発表されて10年以上が経過していますが、現在もこのような状況なのでしょうね。

「がんは治る病気」というお墨付きを得たい、という読者には、モヤモヤが残る内容かもしれません。
しかし、がんという病気がなぜ、日本人の死因のトップになっているのか、なぜ検査や予防が必要なのか、この本を読んで一歩、理解を深めることができました。

自らも医師という著者が書いた本なので、がんという病気に対して医療現場でどのような治療が行われてきたのか、患者たちはどのように闘ってきたか、リアルにイメージすることができました。
がんについては、最新の研究状況も含め、もう少し勉強を積んでいきたいと思います。

久しぶりにサイエンス系ノンフィクションを読み(今回はAudibleで視聴)、知的刺激を味わわせてもらいました。
ブランクをあけずに、良著を探して読んでいきたいと思います。
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2023年11月20日

読書状況 読み終わった [2023年11月20日]
カテゴリ サイエンス

日本人の死因のトップになっている、がん。
この病気については、「怖い」という印象ばかりが強く、現在の治療法などについてこれまで、ほとんど学んできていませんでした。

Audibleのラインアップを見ていたら、がんへの取り組みの歴史をまとめた本があることを知りました。
「この機会に勉強しよう」と思い、聴くことにしました。

上下巻構成で、上巻は3部に分かれています。

第1部は、古代から20世紀前半にかけての、がんに対する科学的アプローチの歴史が書かれています。

紀元前のエジプトですでに、がんの存在は知られていた。
しかし、がんが原因で亡くなる人は少なく、近代まで有効な治療は行われてこなかった。
・・・これらの記述には、「意外だな」と感じました。

がんに対して本格的に治療方法が模索され始めたのは、解剖学の知見が蓄積され、麻酔の技術が実際に使えるようになった、19世紀後半以降なのですね。
外科手術が必要だったこと、そしてがん以外の死因が多かったことが、主な理由だったと理解しました。

第2部は20世紀半ば、おおよそ1940年代から60年代にかけて。
メインで取り上げられているのは、化学療法の開発、臨床試験の歴史です。

患者の体が耐えられる範囲で、がん細胞を殺す薬を投与する。
がん細胞の性質上、残ってしまうとふたたび増殖してしまう。
非常に難しいことに、医師たちは取り組んできたのですね。

また、技術的なアプローチをスピーディーに進めていくには、資金集めが必要であること。
効果の得られる方法を早期に見出すためにも、臨床試験は計画的に進めていく必要があること。
これらの理由から、大きな組織で取り組んでいく必要があったのだとも、理解しました。

第3部は、20世紀終盤、1970年以降の取り組みについて。
20世紀半ばからの、がんとの戦いは効果があったのか?
治療の効果というものを統計的に評価するのは難しいmものなのだ、と理解しました。

引き続き、下巻もAudiblで聴きます。
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2023年11月13日

読書状況 読み終わった [2023年11月13日]
カテゴリ サイエンス

ニュースなどで、高額で売買された美術品の話題を、しばしば目にするようになりました。
日本以外の国もそんなに景気は良くないはずなのに、なぜなのかな?と、不思議に思っていました。
また、現代アートの作品については、実物を見ただけでは「なぜ、これだけ高い評価が与えられるのだろう?」と、不思議に思うものが多くあります。

そんな、アートの価値や取引についての疑問に、答えてくれそうな本があると知ったので、読むことにしました。

著者は東京京橋で、画廊を経営しているとのこと。
本書は6章で構成されています。

第1章は、アートとは何かについて。
「広義のアート」と「狭義のアート」が対比して解説されているので、今まで自分が区別して考えていなかったこと、そしてこの二つの概念の違いを、理解することが出来ました。

第2章は、ルネサンス期のアートについて。
職人と芸術家の違いや、美の創造者としての人間の位置づけの転換といったあたりを、興味深く読ませてもらいました。

第3章はルネサンス以降のアートの変遷について。
風景画の誕生やバロック、ロココといった様式の成り立ちが、当時の政治(社会情勢)の動きとからめて、説明されています。
美術史の流れをはじめて、理解できたような気にさせてもらいました。

第4章は、メディアとブランドの誕生。
フランス革命に見られる、市民の力の拡大。
産業を振興させるために開催された万博と、その中で賞を与えたことによる、「ブランド」の誕生。
作品そのものだけでなく、作品を生み出す芸術家の、ブランド化。
現在に続く、アートのビジネス的側面の成り立ちの説明として、説得力があると思いました。

第5章は、画商について。
第6章は、アートとビジネスの関係について。
「アートもビジネスも、虚構の上で成り立っている」という説明は、先に『サピエンス全史』を読んでいたので、理解することができました。

『サピエンス全史(下)』
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/B01LVTWOVT

この説明は、”ビジネス”を”お金”にかえても成り立つと思うので、大雑把に感じる部分はありました。
しかし、コミュニケーションという視点も組み合わせて、アートとビジネスの共通性が考察されているので、「長く画商をやってきた人ならではだな」と思いました。

これまで、西洋美術史に関する本は何冊か読んできましたが、その多くは絵画制作技術を切り口に説明されたものでした。
美術品売買の成り立ちを軸に書かれた本書は、独特の視点でこのテーマに取り組んでいる一冊だと思います。
本書の解説を読んで、はじめて理解できたことも複数、ありました。

美術史の流れについて、理解を深めることができたこと。
独自の視点で物事を整理することの、有効性を再確認できたこと。

複数の意味で、印象に残る一冊でした。
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2023年11月6日

古き良き英国ミステリーの雰囲気を思い出させてもらえた、『カササギ殺人事件』の上巻。

『カササギ殺人事件 上』
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/B07GBQ2NF2

かなり話が進んでいたので、「下巻はどうなるのだろう?」と気になり、すぐにAudibleで聴くことしにました。

冒頭を聴いて、あらびっくり。
上巻の話は、小説の中の小説、だったのですね。

たしかに上巻冒頭にはそのように書かれていたのですが、一冊まるまる話が続いたので、すっかりそちらの話に引き込まれてしまっていました。

下巻では、この小説を読んだ、出版社の担当編集者が中心となり、話が進んでいきます。

下巻冒頭で明かされるのが、この小説の結末部分が無いこと。
そして、作者が死亡したこと。

女性編集者は、その有無が自社の経営に大きな影響を与える、小説の結末部分を探しに動きます。

彼女は、原稿を見つけることができるのか。
作家はなぜ、死んだのか。
残された作品に、作家はどのようなメッセージを込めたのか。

場面を細かく切り替えながら、テンポ良く進んでいくので、話の先が気になって、次へ次へと、聴き進めました。

下巻はミステリー小説を出版している人物の視点で書かれているので、小説の文章をどう読み解くのか、作家は登場人物の設定や名前をどう決めるのかなど、“内部”からの解説も興味深く聴きました。

作中小説の展開の謎を読者に問いかけながら、その小説を巡る謎も問いかける。
21世紀の英国ミステリーはだいぶ、手の込んだものになっているのですね。

この分野の作品を他にも読みたいと思わせてもらった、聴き応えのある一冊でした。
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2023年11月2日

読書状況 読み終わった [2023年11月2日]
カテゴリ 小説
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