今まで読んだことのない作家の小説を読もうと、意識して作品探しをしています。
そんな中、とある場で紹介されていたこの作品が気になり、文庫化もされているようだったので、電子書籍版で読むことにしました。
物語は昭和36年の、小学校のシーンから始まります。
小学校の用務員として働いてる吾郎は、児童達の求めに応じて、放課後に勉強の面倒を見ています。
そこにある日、一人の児童の母親、千明が訪ねてきます。
彼女が言ったのは、「いっしょに塾をやりましょう」ということ。
夫婦となった、吾郎と千明。
ふたりの、塾経営に奮闘する日々が描かれていきます。
作品は8つの章で構成されています。
それぞれの章の間には年単位のブランクがあり、全体として半世紀近くの年月が流れています。
親子孫の三代に渡る、まさに「大河ドラマ」のような、壮大な物語です。
「教育」が全体を通じてのテーマ。
昭和の高度成長期から平成後半にかけての、その時代時代の、教育に関する話題が取り上げられています。
そのテーマに、主人公ふたりを中心とした家族に降りかかる問題が、重ね合わされています。
日本の教育制度。
存在が必要とされ発展してきた塾という存在、しかし世の中の移り変わりとともに、その役割も変わっていきます。
子供を悪くしたいわけではない、でも考えやアプローチが違い対立してしまう。
教育という世界の難しさ、関係する人たちの情熱を、感じました。
かたや、主人公たちの人生は、山あり谷あり。
一途に道を進む千明と、女性に翻弄されてしまう性格の吾郎。
人とは違うことをやろうとすれば、その波も大きい。
自らの仕打ちは、自らに帰ってくる。
そして子供は、親の意思を引き継ぐ、しかし親の思い通りにはならない。
因果応報、輪廻、諸行無常。
仏教説話を連想するような面もありました。
冒頭は”昭和の文学作品“ような、拡張の高い文体。
しかし途中から、高度成長期のエネルギーを感じる文体に変わります。
時代の空気というものを、文章で表現しているのだなあと、気づきました。
エネルギー・高揚、挫折、感動。
さまざまな感情も味わせてもらえました。
作者が直木賞を受賞しているということも、納得の作品でした。
他の作品も探して、読んでいきたいと思います。
- 感想投稿日 : 2019年7月17日
- 読了日 : 2019年7月17日
- 本棚登録日 : 2019年7月17日
みんなの感想をみる