西欧近代社会における人間性の喪失と回復の物語。
ラスコリニコフは「罪」人ではあるが、「悪」人としては描かれていない。彼が殺人に至った動機は、欲や怨恨のようなわかりやすいものでもなく、実は論文の形で発表した思想でもない。不幸な偶然も重なり「魔が差した」という表現が合う気がする。
市民革命の結果として広がった「自由」と「平等」の思想。人間は何でもできる自由を持ち、権利は平等に与えられている...
現実には何事かを成し遂げられるのは一握りの英雄で、凡夫はかつかつ生きていくのが精いっぱい、持てる者と持たざる者の差はそのままに、借金の取り立てだけが平等に降りかかって来る。
英雄と凡夫を分ける「あちら側」と「こちら側」の境界は平等に開放されており、意思の力があれば個人は「あちら側」に行くことができる...
結果として自分が凡夫であることを思い知らされたラスコリニコフは、知らず知らずのうちにドゥーニャのため、そしてソーニャのために「罰」を受け入れ、人間としての生を取り戻す。
ラストシーンは簡潔な描写だが、美しさに心が震えた。
大仰な愛情表現は一行も出てこないが、「愛の物語」だと思う。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2017年8月3日
- 読了日 : 2017年8月3日
- 本棚登録日 : 2017年6月27日
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