人類と病-国際政治から見る感染症と健康格差 (中公新書 2590)

著者 :
  • 中央公論新社 (2020年4月18日発売)
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【書誌情報+内容紹介】
『人類と病――国際政治から見る感染症と健康格差』
著者:詫摩 佳代[たくま・かよ] 国際政治学。東京都立大学教授。
初版刊行日:2020/4/21
判型:新書判
頁数:256
定価:本体820円(税別)
ISBN:978-4-12-102590-6

人類の歴史は病との闘いだ。ペストやコレラの被害を教訓として、天然痘を根絶し、ポリオを抑え込めたのは、20世紀の医療の進歩と国際協力による。しかしマラリアはなお蔓延し、エイズ、エボラ出血熱、新型コロナウイルスなど、新たな感染症が次々と襲いかかる。他方、現代社会では、喫煙や糖分のとりすぎによる生活習慣病も課題だ。医療をめぐる格差も深刻である。国際社会の苦闘をたどり、いかに病と闘うべきかを論じる。
https://www.chuko.co.jp/shinsho/2020/04/102590.html

【目次】
はしがき [i-viii]
目次 [ix-xiv]

序章 感染症との闘い――ペストとコレラ 001
1 ペストと隔離 002
  アジアからヨーロッパへ
  『デカメロン』に見る中世のペスト
  隔離政策への反発
2 コレラと公衆衛生 009
  アジアから世界的流行へ
  公衆衛生設備の発展
  国際保健会議の開催
  スエズ運河の開通
  国際衛生協定の締結
  クリミア戦争での蔓延
  赤十字社の設立
  感染症との闘いが遺したもの 

第1章 二度の世界大戦と感染症 025
1 第一次世界大戦と感染症 026
  塹壕での生活
  マラリアの流行とキニーネの限界
  アメリカの参戦とスペイン風邪
  強大化したインフルエンザ
2 大戦後のチフス 034
  赤十字社連盟のイニシアティブ
  感染症委員会の発足
  ロシアへの支援
3 国際保健協力の発展 040
  マラリアへの取り組み
  植民地での活動
  感染症情報業務
  国際標準化事業保健協力と国際政治
4 第二次世界大戦における薬の活躍 047
  サルファ剤の登場
  ペニシリンの登場
  抗マラリア薬クロロキンの登場
  DDTの活用から禁止へ
  第二次世界大戦と国際保健協力

第2章 感染症の「根絶」――天然痘、ポリオ、そしてマラリア 057
1 WHOの設立 058
  「健康」の新しい解釈
  サンフランシスコ会議での進展
  影の立役者たち
  加盟国と名称をめぐる駆け引き
  非自治地域の加盟をめぐって
  冷戦の影響
  国際政治とのせめぎ合い
2 天然痘根絶事業 068
  恐れられた疫病
  天然痘子防接種の登場
  フリーズドライ・ワクチンの普及
  ソ連のイニシアティブ
  全人口の八割接種を目指して
  米ソの協力
  根絶に向けた努力
  サンブルを破棄するか否か
3 ポリオ根絶への道 080
  二つのワクチンの登場
  生ポリオワクチン実用化に向けた米ソ協力
  ポリオワクチンをめぐる問題
  ポリオ根絶に立ちはだかる壁
4 マラリアとの苦闘 091
  アメリカの勧め
  DDTの副作用
  マラリア根絶プログラム始動
  耐性蚊との闘い
  根絶プログラムへの二つの評価
  資金調達メカニズムの登場
  なぜマラリアへの関心が高まっているのか?
  蚊帳・新薬・ワクチン
  感染症との闘い

第3章 新たな脅威と国際協力の変容――エイズから新型コロナウイルスまで 107
1 エイズは撲滅できるか 109
  感染症の世紀
  エイズの特異性
  難しい予防
  差別と偏見
  国連合同エイズ計画の設立
  安全保障上の課題として
  資金の動員
  治療をめぐる状況
  HIVワクチンの開発
2 アジアを震撼させたサーズ 128
  謎の新興ウイルス感染症
  対応の光と影
  国際保健規則の改定
3 エボラ出血熱の教訓 133
  再興ウイルス感染症の流行
  流行を長引かせた要因
  国連エボラ緊急対応ミッションの活躍
  エボラの教訓
4 新型コロナウイルスと国際政治 141
  感染症が安全保障を脅かす
  中国のリーダーシップ?
  中対立の影響
  いかに感染症と向き合うか?

第4章 生活習慣病対策の難しさ――自由と健康のせめぎ合い 147
1 生活習慣病の台頭 148
  感染症から生活習慣病へ
  発展途上国を蝕む非感染症疾患
  早期発見、治療、予防の取り組み
2 生活習慣病予防策の障壁 
  糖分の摂取量をめぐる攻防
  ソフトドリンクへの課税?
  フードガイドをめぐる攻防
  アルコールの過剰摂取
  自由か、健康か?
3 喫煙と人類社会 
  たばこと健康
  元祖嗜好品
  政府による規制の始まり
  規制を望む努力が優勢に
4 たばこ規制の進展と将来 168
  難航した交渉
  締結に至った背景
  市民社会組織の活躍
  たばこ規制枠組み条約の採択
  パッケージをめぐって
  なお残る課題
  新型たばこの登場
  日本における規制
  新興国・発展途上国での現状
  自由への脅威?

第5章 「健康への権利」をめぐる闘い――アクセスと注目の格差 189
1 医薬品アクセスをめぐる問題 190
  基本的人権としての健康
  必須医薬品へのアクセス
  政府による規制の不備
  市場メカニズム
  トリップス協定による特許保護
  トリップス協定の柔軟性
  先進国の圧力と途上国の対抗措置
  パテントプールの創設
  C型肝炎の治療薬へのアクセス拡大
  国境なき医師団などの活動
2 顧みられない熱帯病 207
  注目の格差
  貧困と深い関係にある病
  高まる関心パートナーシップの活躍
  DNDiの取り組み
  「健康への権利」の実現に向けて
  人類と病――闘いの行方

あとがき(二〇二〇年三月 詫摩佳代) [222-225]
参考文献 [226-238]



【抜き書き】

□pp. 223-224
“なぜWHOを中心とする協力の枠組みが存在するに至ったのか、その原点にたち返る必要があるように思う。結局、国際協力なくして人類は感染症に対処することはできないのだから。/健康を守るための国際協力は、感染症などの外敵に対抗しうるのみならず、国際社会の平和や友好といった内なる結束を固めることにもつながりうる。国際社会は主権国家によって分断されているが、感染症や非感染症疾患など様々な脅威から人間の健康を守ることは、国際社会における数少ない共通の価値観となる。もちろん、国家間の基本的な信頼関係が存在しなければ、保健協力も難しいことが多い。それでも、各国で自国第一主義が蔓延する今日だからこそ、人間の健康は国際協力によってしか守られないこと、そして国際保健協力に内在する政治的潜在力を、より多くの政治指導者が認識し、活用する必要があるように思う。人間の健康を確保していく上での保健協力の重要性と、保健協力の政治的な潜在能力。この二つについて、理解と関心を深めていただければ、本書の目的は達成される。”

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 319.国際関係・外交
感想投稿日 : 2020年4月20日
読了日 : 2020年4月21日
本棚登録日 : 2020年4月14日

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