【書誌情報+内容紹介】
『人類と病――国際政治から見る感染症と健康格差』
著者:詫摩 佳代[たくま・かよ] 国際政治学。東京都立大学教授。
初版刊行日:2020/4/21
判型:新書判
頁数:256
定価:本体820円(税別)
ISBN:978-4-12-102590-6
人類の歴史は病との闘いだ。ペストやコレラの被害を教訓として、天然痘を根絶し、ポリオを抑え込めたのは、20世紀の医療の進歩と国際協力による。しかしマラリアはなお蔓延し、エイズ、エボラ出血熱、新型コロナウイルスなど、新たな感染症が次々と襲いかかる。他方、現代社会では、喫煙や糖分のとりすぎによる生活習慣病も課題だ。医療をめぐる格差も深刻である。国際社会の苦闘をたどり、いかに病と闘うべきかを論じる。
〈https://www.chuko.co.jp/shinsho/2020/04/102590.html〉
【目次】
はしがき [i-viii]
目次 [ix-xiv]
序章 感染症との闘い――ペストとコレラ 001
1 ペストと隔離 002
アジアからヨーロッパへ
『デカメロン』に見る中世のペスト
隔離政策への反発
2 コレラと公衆衛生 009
アジアから世界的流行へ
公衆衛生設備の発展
国際保健会議の開催
スエズ運河の開通
国際衛生協定の締結
クリミア戦争での蔓延
赤十字社の設立
感染症との闘いが遺したもの
第1章 二度の世界大戦と感染症 025
1 第一次世界大戦と感染症 026
塹壕での生活
マラリアの流行とキニーネの限界
アメリカの参戦とスペイン風邪
強大化したインフルエンザ
2 大戦後のチフス 034
赤十字社連盟のイニシアティブ
感染症委員会の発足
ロシアへの支援
3 国際保健協力の発展 040
マラリアへの取り組み
植民地での活動
感染症情報業務
国際標準化事業保健協力と国際政治
4 第二次世界大戦における薬の活躍 047
サルファ剤の登場
ペニシリンの登場
抗マラリア薬クロロキンの登場
DDTの活用から禁止へ
第二次世界大戦と国際保健協力
第2章 感染症の「根絶」――天然痘、ポリオ、そしてマラリア 057
1 WHOの設立 058
「健康」の新しい解釈
サンフランシスコ会議での進展
影の立役者たち
加盟国と名称をめぐる駆け引き
非自治地域の加盟をめぐって
冷戦の影響
国際政治とのせめぎ合い
2 天然痘根絶事業 068
恐れられた疫病
天然痘子防接種の登場
フリーズドライ・ワクチンの普及
ソ連のイニシアティブ
全人口の八割接種を目指して
米ソの協力
根絶に向けた努力
サンブルを破棄するか否か
3 ポリオ根絶への道 080
二つのワクチンの登場
生ポリオワクチン実用化に向けた米ソ協力
ポリオワクチンをめぐる問題
ポリオ根絶に立ちはだかる壁
4 マラリアとの苦闘 091
アメリカの勧め
DDTの副作用
マラリア根絶プログラム始動
耐性蚊との闘い
根絶プログラムへの二つの評価
資金調達メカニズムの登場
なぜマラリアへの関心が高まっているのか?
蚊帳・新薬・ワクチン
感染症との闘い
第3章 新たな脅威と国際協力の変容――エイズから新型コロナウイルスまで 107
1 エイズは撲滅できるか 109
感染症の世紀
エイズの特異性
難しい予防
差別と偏見
国連合同エイズ計画の設立
安全保障上の課題として
資金の動員
治療をめぐる状況
HIVワクチンの開発
2 アジアを震撼させたサーズ 128
謎の新興ウイルス感染症
対応の光と影
国際保健規則の改定
3 エボラ出血熱の教訓 133
再興ウイルス感染症の流行
流行を長引かせた要因
国連エボラ緊急対応ミッションの活躍
エボラの教訓
4 新型コロナウイルスと国際政治 141
感染症が安全保障を脅かす
中国のリーダーシップ?
中対立の影響
いかに感染症と向き合うか?
第4章 生活習慣病対策の難しさ――自由と健康のせめぎ合い 147
1 生活習慣病の台頭 148
感染症から生活習慣病へ
発展途上国を蝕む非感染症疾患
早期発見、治療、予防の取り組み
2 生活習慣病予防策の障壁
糖分の摂取量をめぐる攻防
ソフトドリンクへの課税?
フードガイドをめぐる攻防
アルコールの過剰摂取
自由か、健康か?
3 喫煙と人類社会
たばこと健康
元祖嗜好品
政府による規制の始まり
規制を望む努力が優勢に
4 たばこ規制の進展と将来 168
難航した交渉
締結に至った背景
市民社会組織の活躍
たばこ規制枠組み条約の採択
パッケージをめぐって
なお残る課題
新型たばこの登場
日本における規制
新興国・発展途上国での現状
自由への脅威?
第5章 「健康への権利」をめぐる闘い――アクセスと注目の格差 189
1 医薬品アクセスをめぐる問題 190
基本的人権としての健康
必須医薬品へのアクセス
政府による規制の不備
市場メカニズム
トリップス協定による特許保護
トリップス協定の柔軟性
先進国の圧力と途上国の対抗措置
パテントプールの創設
C型肝炎の治療薬へのアクセス拡大
国境なき医師団などの活動
2 顧みられない熱帯病 207
注目の格差
貧困と深い関係にある病
高まる関心パートナーシップの活躍
DNDiの取り組み
「健康への権利」の実現に向けて
人類と病――闘いの行方
あとがき(二〇二〇年三月 詫摩佳代) [222-225]
参考文献 [226-238]
【抜き書き】
□pp. 223-224
“なぜWHOを中心とする協力の枠組みが存在するに至ったのか、その原点にたち返る必要があるように思う。結局、国際協力なくして人類は感染症に対処することはできないのだから。/健康を守るための国際協力は、感染症などの外敵に対抗しうるのみならず、国際社会の平和や友好といった内なる結束を固めることにもつながりうる。国際社会は主権国家によって分断されているが、感染症や非感染症疾患など様々な脅威から人間の健康を守ることは、国際社会における数少ない共通の価値観となる。もちろん、国家間の基本的な信頼関係が存在しなければ、保健協力も難しいことが多い。それでも、各国で自国第一主義が蔓延する今日だからこそ、人間の健康は国際協力によってしか守られないこと、そして国際保健協力に内在する政治的潜在力を、より多くの政治指導者が認識し、活用する必要があるように思う。人間の健康を確保していく上での保健協力の重要性と、保健協力の政治的な潜在能力。この二つについて、理解と関心を深めていただければ、本書の目的は達成される。”
- 感想投稿日 : 2020年4月20日
- 読了日 : 2020年4月21日
- 本棚登録日 : 2020年4月14日
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