フーコーが晩年にたどり着いた境地が、マルクス・アウレリウスの「自省録」。で、その岩波文庫版を訳しているのが神谷美恵子で、この人は、フーコーの「臨床医学の誕生」の訳者でもあって、なんだか面白いなー、などと思いながら、「生きがい論」「幸福論」として著名な「生きがいについて」(初版1966年)を読んでみた。
おー、なんだか久しぶりに実存主義!という感じだ。引用されるのが、ヤスパース、サルトル、ヴェイユといったところが多い。
が、古いという感じは全くない。
内容的には、哲学や心理学の諸外国の成果を踏まえつつ、自身のらい療養院での経験をふんだんに盛り込んだ、とても根源的な人間論になっている。
最近、ポジティブ心理学などで注目されるようになった「幸福」「充実感」「フロー」などとの議論とも、とてもうまくかみ合っているし、たんに、ポジティブエモーションというだけでない、人間の本質への洞察が素晴らしいものがあると思う。
それにしても、この人の活動量には、驚くな。最初は、文学をやっていて、西洋古典などを勉強し、その後、医学部にいって、精神科医になる。そして、大学で教鞭をとるかたわら、らい療養院に通っている。さらに、「自省録」を訳し、フーコーを訳し、ヴァージニア・ウルフを研究し、こうして本も書いている。(本を書く時の集中力、情熱がすごい)そして、家庭の主婦でもあった。そして、この本の付録についている執筆日記を読むと、さまざまな洋書(英語、フランス語、ドイツ語)を次々と読んでいて、さらには、ピアノでバッハを弾いたり、いろいろしている。
あー、そのうちの一つの仕事も自分にはできないだろうなー、と思うと、嫌になる。というか、スゴい人は本当にスゴいなと驚嘆するしかない。
しばらく、神谷美恵子の他の作品も読んでみる事にする。
- 感想投稿日 : 2017年4月30日
- 読了日 : 2010年4月10日
- 本棚登録日 : 2017年4月30日
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