トランスクリティーク ― カントとマルクス

著者 :
  • 批評空間 (2001年9月20日発売)
3.53
  • (4)
  • (1)
  • (12)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 63
感想 : 4
4

久しぶりに柄谷さんの新著「力と交換様式」を読んだら、なんか大味な感じがして、どうしてこうなったのだろうと不思議に思い、これを読んでみた。

1998〜99年に雑誌に掲載されたものに大幅な加筆修正をして、2001年に出版されたもの。

あと書きを読むと、この本は柄谷さんにとって「特別な著作」で、分厚いし、「40年前から考えてきた諸問題に決着をつけることができた」とのこと。さらに「どうしても見出しえなかった積極的な展望を見出すことができた」とのこと。

そうか〜、2000年以降の柄谷さんを理解するためには、これを読まなければならなかったのだな〜、と納得。

これ以前も、結構、柄谷さんはカントやマルクスを論じてきていたわけだが、ここでこの2つが一体のものに組み合わさっている。

とくにマルクスの読解はとてもスリリングなものであった。いわゆるマルクス主義的な理解で、マルクスを読んでも、とくに「資本論」や「ルイ・ボナパルトのブリュメール18日」を読んでもなんだか分からない、ここには何か違うものがある気がするが、なにが違う分からない感覚があったのですが、そのあたりの違和感がかなり解消された気がする。

そして、マルクスやカントを、ヘーゲル、フロイト、フッサール、ウィトゲンシュタイン、レヴィ・ストロース、デリダ、ドゥルーズ、などなどとの関係付けながら、説明してくれて、さらにはアダム・スミスやリカードの経済学との違い、さらにはルカーチやグラムシ、アルチュセール、フランクフルト学派、ウォーラステイン、日本のマルクス学者などなどとの関係も整理してくれる。そして、アーレントのカント解釈との関係もなるほどであった。

難しい内容ではあったが、これまでのいわゆるマルクス主義の解釈を退け、本当にマルクスの「可能性の中心」を見つけ出していると思った。

柄谷さんによると、ソ連崩壊後、資本主義が勝利したかにみえるなかで、ポストモダーン思想が共産主義との対立構造のなかで、存在していたという認識がでてきたようで、柄谷さんが、90年代以降、いわゆるポストモダーンなところから、左翼的な知識人的なスタンスに印象が変わったことの説明にもなっている。

つまり、マルクスのテキストをしっかりと読めば、マルクスの言っていることと現実の共産主義は全く違うものであるということ。

そして、マルクスがもともと言っていたことは、後のマルクス研究者を含め、その批判者・批判的継承者よりも、深いところがあり、そこから今日の社会に対しての有効な示唆があるということ。

内容的に細かいところを整理するほどまだ理解が進んでいないのだが、この本で示唆される「積極的な展望」の部分が展開したのが、「世界史の構造」(まだ読んでないけど)そして「力と交換様式」だったんだろうな〜。

この本で示されるカントやマルクスの読解、批評性には、とても共感するのだが、「積極的な展望」になると個人的には疑問も湧いてくる。

批判を超えて、なにか「積極的」なものを生み出しいくことの難しさを改めて認識した。

★が4つなのは、わたしがあまり理解できていないところも多いので、一つ★を減らした。ちゃんと全部丁寧に読めば、★は5つになると思う。

ちなみにわたしは古本で単行本の初版を買って読んだのだが、サイバネティクスの元祖としてロバート・ウィーナーという名前が2回くらい出てくる。これは、ノーバート・ウィーナーの間違いとおもわれる。そこはちょっと残念。その後の版では修正されているといいのだけど。

この本とは関係ないけど、ある本で、おそらくハーバート・サイモンのことだろう人の名前が、ロバート・サイモンと書いてあって、再版でも修正されていないのでがっかりしたこともあったな〜。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年11月7日
読了日 : 2022年11月7日
本棚登録日 : 2022年11月7日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする