居心地の悪い部屋 (河出文庫 キ 4-1)

  • 河出書房新社 (2015年11月5日発売)
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感想 : 65
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 ジャンルに分類できない「居心地の悪さ」のある小説をテーマに編まれた12の短編からなるアンソロジー。岸本佐知子さんの編訳ということで購入。

 そうそう、そういえばそうだった。そういえば小説は、こういうやり方が許される媒体だった。わずか10ページ前後の一つ一つの作品を読むたびにそんなことを思い出す。
 説明も無しに投げ込まれる感覚が生み出す不安。そして作家によって変幻自在に変わる構成や自由な文体。正統派の幻想小説もあれば対話体の小説があり、トリビア本のパロディなんてものもある。

 翻って自分の書くものは無理な整理がされすぎてはいないか。アンソロジーなんてものを読んだのが久々だったからだろうか、自分の中でいつの間にか生じていた小説に対する“凝り”のようなものがいくらかほぐれた気がして少し楽になった。
 書くことについて道に迷ったときに選集を読むのはありかもしれない。

 内容に関しては、ルイス・アルベルト・ウレアの「チャメトラ」、ルイス・ロビンソンの「潜水夫」、ケン・カルファスの「喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ」あたりが特に良かった。

「チャメトラ」は銃で撃たれた兵士の頭から“夢”が流れ出てくるというシュールで悪夢的なビジョンが色彩豊かに描かれた作品であり、収録された作品の中でも最も幻想小説的だった。
「潜水夫」はサスペンス風だがそこに夫婦間の不安なども混ざってきて面白い。世話にはなったが嫌いな人間が遠ざけておきたいのに妙に馴れ馴れしく、妻もそれを歓迎しようとするので離れられないという状況は嫌なリアリティがある。
「喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ」は1打席に56本のファウルを打った男や、年間121個のセーフティバントを成功させて誰からも嫌われた男など、架空の出来事を描いた作品なのだが、その“居心地の悪さ”は本物であり、実に野球的。

 自分にはピンとこない作品もあったが、それもアンソロジーらしさだろう。
 こんどはそう来たか、という楽しみが味わえる良い一冊だった。


読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年3月3日
読了日 : 2022年3月3日
本棚登録日 : 2022年3月3日

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