新書514 ぼくらの民主主義なんだぜ (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2015年5月13日発売)
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朝日新聞に月に1回掲載されてきた高橋源一郎の論壇時評を集めたもの、現在も連載中だが、まずは2011年4月から2015年3月までの4年分が新書の形で出版された。最近はうっかり連載日を忘れないかぎり読んでいるが、本書の前半に収められた文章はほとんど読んだ記憶が無い。実のところ高橋源一郎の小説は苦手な方なので、最初の内は、むしろ彼の書いたものだからと言うことで読んでいなかったのだろう。
どの文章にも共通するのは、視野の広さと、分からないものに対する謙虚さ、そして何らかのイズムに偏ることなく、人間としてのごく素朴な感情に基づいて社会を見通す目だ。大人の知性と子どもの純真さを兼ね備えた目と言ってもいいだろう。そんな高橋の視点に触れると、目の前の混沌に満ちた光景がすっとクリアになる。そう、現実はどうであれ、ものの考え方としては、こんな単純な思いを基点にするだけでいいのではないか。
しかしそのような文章を48編まとめて読んだとき、ある種の限界を感じたのも確かだ。確かに基本的な考え方はこれでいい。しかし、こんな馬鹿馬鹿しいほどまともな考え方が何故社会のスタンダードにならず、現実はそれと逆行するようなことばかりなのか… その解答や解決策は、本書を読んでもほとんど分からないからだ。たまに解答に当たるような部分があっても、どこか文学的な修辞に逃げている印象を受けた。
だが本書の幾つかの文章を読めば分かるとおり、傑出した才能が解答を出して凡夫を導くのではなく、圧倒的多数の凡夫が玉石混淆の意見を出し合いながら解答を見いだしていく、極めて不合理なプロセスこそが「民主主義」なのだ。自分自身で解答を見つけ出す労を厭い、面倒なことをリーダーに丸投げしようとする人々の精神構造こそ、現在の閉塞した社会を生み出した元凶だろう。その意味では、『ぼくらの民主主義なんだぜ』というタイトルの本に「解答がない」という不満を持つこと自体、自らを反面教師として、今の社会の問題点を見事に映し出しているとも言える。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 思想・哲学
感想投稿日 : 2015年6月5日
読了日 : 2015年6月4日
本棚登録日 : 2015年6月5日

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