フクシマの王子さま

著者 :
  • 芸術新聞社 (2011年12月26日発売)
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感想 : 3
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あの2011年の終わりころに出版された本。赤ちゃんを産んだばかりのお母さんの語りという体裁の、世間への訴え的な、ノンフィクション的フィクションでした。東電への怒り恨みが根底にふつふつとあって、ぬらぬらとした感情を感じさせつつ、原発に反対する論拠を述べていきますが、ときに恣意的すぎるきらいがありました。あまり科学的ではないというか、記述に正確性を欠いていたり、情報源がはっきりしなかったり、デマを信じているように見受けられる記述があったりする。その顕著なところは、原発の格納器から蒸気を放出するベントという作業についてです。これは、原発が津波で大ダメージをうけてなかなか作業できなかったのが本当のところだと、NHKの番組やほかのノンフィクションで知っていますが、この本では簡単に、そんな単純な作業にすら長い時間をかけてしまったのは、日ごろの保守点検作業に怠りがあったからだと、あまりに考えがないまま結論づけられている。さらに、そんなベントのバルブなどにはきっと公にできない秘密があるのだ、などと、すこし妄想的な文章が続く。たしかに、福島に住む人々の怒り、もっといえば北海道に住む僕だってなんたることだって怒りを覚えたので、この、まだ原発事故から1年もたっていない時期では、こういう物言いにもなってしまうのかなぁという気持ちにもなります。しかし、混沌の火に油を注ぐようなことはしないほうがいい。2011年という年の混乱をそのまま宿しているという意味では価値はあるけれど、2015年になってもはや放射性物質関連には素晴らしい本が出てきているし、情勢も固まったところは固まってるし(原発事故は収束していないけどね)、今読むと無用な混乱を再び招く恐れもあるように思いました。すごく勉強しされているので、惜しい。(なんて、僕がいえたもんじゃないんですけども)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2015年7月30日
読了日 : 2015年7月30日
本棚登録日 : 2015年7月30日

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