姉の島

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2021年6月7日発売)
3.68
  • (7)
  • (16)
  • (16)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 174
感想 : 27

今年の3月に読んだ文春文庫『飛族』(9784167918125)の雰囲気が気に入り、ちょうどその頃、文芸書棚前に平置きされていた本作を手に取る。

どちらの作品も’本土から海で隔てられた島で暮らし、晩節を迎えた老海女の視点から死生についてを見つめた作品’という共通項はあるものの、その見方は対極的である。
いずれも島が舞台という事で、カラッとした風通しの良さを肌に感じつつも『飛族』は死の気配が近く濃く漂っていて、常に’昇華・昇天’を意識した様なフワフワした仄寂しさを纏った作品だったなぁ、という一方で『姉の島』は確かな生命力がしっかりと宿った作品。

まず見返し紙に広がる閑とした青を捲ると、中扉の黄色が燦燦と眩しく、さながら陽に暖められた砂浜の熱を目と手から感じられるかのよう。
また作中に於いても、美歌がお腹に宿した子の存在は作品を一貫して未来を感じさせる’命’の象徴であり、はたまた何度か描かれる食事に関する場面が、副菜の色どりまで描かれる事で、正に’命を補給しているなあ’という様に私には印象的に感じられた(p29「握り飯」「きんぴらゴボウ」「卵焼きと小アジの南蛮漬け」p80「あつあつの芋饅頭」、p93「アゴのそぼろ弁当」、p205「素麺」「キュウリの糠漬け」などなど…)。

そして本作の極め付け且つ締め括りが’素潜りで海没処理された潜水艦を見に行こう’というもの。
確かに前振りはあったにはあったが、正直これは急展開と言わざるを得ない超展開。
冒頭で沈没船に対して「年寄り仲間」(p29)のようなシンパシーを覚えていたとはいえ、ここまで対面に拘った執念の出所が私には少々唐突だと思われてならなかった。

「海の中は幻のようじゃ」(p18)というフレーズが効いた最終盤の現実と幻がごちゃ混ぜになるシーンは、悼みの内にもほんのりとおかしみを感じさせる場面。

最期のひと時まで’生’を喪わず、きっとミツルは雲の向こうへ昇って行ったのだろう。
後ろ側には黄色い扉紙が綴じられていないのも、砂浜が見えなくなるくらいに空高く昇っていったという事を示唆しているのではないだろうか。


1刷
2022.10.9

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年10月9日
読了日 : 2022年9月22日
本棚登録日 : 2022年9月24日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする