専業主婦のノーラ・ウェブスターは夫を病で失う。上の娘ふたりはそろそろ独立するが、下の男の子ふたりはまだまだ手のかかる年頃で、彼女は生活のため、古巣の会社に再就職する。地味な話かと思いきや、深くて広く開かれた物語だった。最初は歳の近いノーラに自分を重ねて読みはじめたが、次第に同じような境遇で子どもふたりを育てたかつての母に思いを馳せずにいられなかった。家庭と目の前の生活に縛り付けられ、どこにも行けないように見えるノーラだが、その実、心の内側には果てしない自由が広がっていることに驚かされる。4人の子どもたち(とりわけ男の子ふたりがなんとも愛しい。ノーラが母でありわたしであるならば、ドナルは息子で、コナーはかつてのわたしのようにも思えた)の個性を巧みに描き分けることで、いくら愛情を注ごうとも、自分とは別個の人間であり、避けがたく自分から離れていく子どもたちへのどこか投げやりな諦めにも似た複雑な心情があぶり出される。そのあたり、恐ろしく巧い。コルム・トビーンはアイルランドの作家。『ブルックリン』や『マリアが語り遺したこと』も読んでみたいと思った。
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- 感想投稿日 : 2019年7月27日
- 読了日 : 2019年7月27日
- 本棚登録日 : 2019年7月27日
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