オーガ(ニ)ズム

著者 :
  • 文藝春秋 (2019年9月26日発売)
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本棚登録 : 261
感想 : 17

2020年9月6日、2周目読み終わっての感想を追記。
阿部作品、年代順に読んできてたどりついた現時点での最新刊。初読時に感じた文体や表現のウザさは嘘のように消えて、冒頭から面白く読めた。というか、初読時は様子見というかお手並み拝見というか、なぜかだいぶ意地悪く読んでたみたい。
私はシリーズものが苦手で、そのわりに好きなシリーズものの新刊を楽しみに生きてみたいという憧れがあるのだが、一連の神町ユニバース作品のおかげで、シリーズもの(じゃないけど)を楽しむ喜びがちょっとわかったかも!
前に図書館で書評まとめ読みした時に仲俣暁生さんのが一番わかりやすく面白かったから、また読み返してみたけど、やっぱりここまで深くは読めなかったなあ。頭の中で次々映写される場面に運ばれ、細かい描写に乾いた笑いを誘われつつ、忘れてた展開に驚いたりしてるうちに、意味を考えるのを忘れちゃったんですよね。阿部作品はそういうパターンが多いかも。再読ゆえの深まりとかなかったです。
ひたすら巻き込まれる45歳小説家阿部和重とは対照的に、じぶんの意志で神町を駆け巡っているであろう映画監督の川上さん、カッコ良かった。父子関係も素直にいいなあと思えた。お子さんの成長を見守っているからこその変化がこれからも作品にあらわれていくのかな(とかいう期待を裏切ってくれてもまたよし、だが)
田宮家好きだから、もっと彩香に出てきて欲しかったな。あと、久々にサイモン&ガーファンクル聴きたくなりました。聴こう。


以下、初読時の感想↓

860ページの長編、最初は正直、永遠に読み終わる気がしなくてどうなることかと思ったけれど、200ページを過ぎた頃だろうか、オバマとゴルフクラブのくだりあたりからじわじわ面白くなってきた。というか、楽しみ方がわかってきて、無事に最後まで読めました。以下、感想を備忘録的に。

*『シンセミア』未読、『ピストルズ』面白かったけど内容全部忘れた状態で読みました。なまじ『ピストルズ』を読んでいただけに「ああこの人物いたな。でもよく思い出せない」というモヤモヤが序盤の停滞の原因となった気がする。でも、思い出すのを潔く諦めてからは流れに楽しく乗れるようになった。楽しみ方としては、ひたすら台詞の応酬が続くタランティーノの映画とか、黒沢監督でいうと『ドッペルゲンガー』や『セブンスコード』、あと、今年読んだピンチョンの『LAヴァイス』に近いのかな。
*愛してやまない『ミステリアスセッティング』と少しだけつながっているおかげで挫けずにいられた。
*独特の文体は最初「うーん、ちょっと滑ってる?」と感じてしまったんだけど、だんだん憎めなくなってきた。例えば、英語の小説なんかでは普通にある、固有名詞や代名詞ではなく「四五歳の小説家」といった説明的な表現を主語にあてる手法。最初はちょっとうざかったのだが、執拗に繰り返されると「許せる」を通り越して「好きかもしれない」とすら思えてくるというか。
*アヤメメソッドの特性上、どこまでが幻でどこからが現実なのかよくわからない。慣れてくると「ああ、これは幻覚なのだな」とわかってくるのだが、ちょっと油断するとすぐ騙される(笑)。この仕組みは面白かった。あと小刻みに時系列が戻ったりするのも。
*これだけ育児に積極的な父であっても、「父と子」と「母と子」のつながりってのは種類が違うんだなあ、と妙に感心してしまう部分多々あり。きのこ頭の映記くんの脳内キャストは『シャイニング』のダニー坊やで。
*数々の引用の何割くらいを理解できたのかはわからないけど、知ってるの出てくると嬉しくなりますね。とりわけ、最後に引用された詩人。これを数年前に訳した本を通して知っていたことは、長い物語を読み通したごほうびのように感じました。知らない固有名詞は基本読み流したのだけれど、けものの勘で唯一ググった「アッシュ・ケッチャム」はググってよかった。

ちょうど文芸誌の書評が出そろうタイミングで読み終えられたので、近々で図書館に行って各誌読み散らかしてこようと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年11月8日
読了日 : 2019年11月8日
本棚登録日 : 2019年11月8日

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