世にも奇妙な人体実験の歴史 (文春文庫 S 19-1)

  • 文藝春秋 (2016年11月10日発売)
3.64
  • (20)
  • (44)
  • (36)
  • (6)
  • (4)
本棚登録 : 771
感想 : 45
4

人体実験、というとマッドサイエンティストだとか、戦時中の非人道的な行為、というイメージが先行する。
確かに本書に出てくる実験はそういったものもある。
だが、それを、なかったことにできる?
自分に関係ない、と言える?
誰にだって程度の差はあれ、興味はあるでしょう?

私は空気抵抗の実験をしたことがある。仮説はこうだ。
パラシュートが安全に脱出できるのなら、傘でも空気抵抗を実現できるはずだ。
そして私は駐輪場の屋根から傘を両手に持って飛び降りた!
最悪の結果にならなかったが、端的に言えば失敗した。
他にも、「アルコールの摂取量による消化器官と判断力の変化に対する考察」を行ってみたこともある。
が、そんな些細な実験と本書の内容を比べると、比べ物にならない。

音速の壁、ソニックブームの恐ろしさは、思わず電車の中で身震いした。
淋病と梅毒に同時に罹患するよう仕向けたり、炭疽菌を培養したり、漂流してみたり、ありとあらゆる実験がなされてきた!
死骸を食べる実験の章では、日本人にはお馴染みの高級魚(矛盾?)フグも登場!

それにしても、こんな人体実験の数々は、せいぜい20世紀初頭まで、そんなふうにどこか楽観的になってはいまいか?
驚くべきことに2006年、臨床試験中の失敗が起きている。
門外漢の私には、この実験方法が適切だったのかはわからない。
また、募集を見てやってきた被験者たちに問題があったとも考えられない。
当然、臨床試験そのものを否定するものでもない。
しかし、言えるのは、人体実験は功罪併せ持つものであるということ。
医学、科学に従事する人々には心から感謝と尊敬の念を抱くけれども、一方で、一般人の尊厳もやはり忘れてはならない。

本書は、普段ノンフィクションを読まない人、ミステリやホラー好きな人にもおすすめ。
不謹慎?
いや、現実の奇妙さや恐ろしさから現代と自分を省みることができる。
巻末の仲野徹氏の解説までしっかり読み込んでほしい。
「NHK フランケンシュタインの誘惑」でも解説をされている先生だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2020年5月9日
読了日 : 2020年5月9日
本棚登録日 : 2020年5月9日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする