朝ドラ『エール』で、吉岡秀隆さんが物凄い気迫で演じておられたから。古関裕而氏の『長崎の鐘』が時代に染み入るとても素敵な曲だったから。映画の原作となった永井隆博士のこの本を突然読んでみたくなって、そして、予想以上に素晴らしい内容だった。文章は読みやすく、美しく、描かれる情景はまるで漢詩のようだった。
永井博士は被爆者でありながら、ずっと医師であり、科学者だった。"ぴかどん"の体験、見たこと、感じたこと、考えたこと。その中に原子爆弾と放射能による身体への影響の観察、分析、考察がある。被爆者の救護に当たりながら常に研究者としての視点があり、「今私たちが診察している患者こそは、医学史におけるまったく新しい資料なのである」という一文が非常に印象的だった。浦上に原爆が落とされた意味について語る部分はカトリック信者ならでは。二度と戦争を起こさないように、原子の力が殺人の道具として使われることのないように、わたしたち未来の人のために、今日の平和のために、使命感を持って書き残したのだと強く感じた。
同じ医療に携わる者として博士の精神は手本となる。この記録に"赤十字"という言葉が出てきたことは個人的に誇りに思う。出会えて良かった一冊。
201107読了。
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- 感想投稿日 : 2020年11月7日
- 読了日 : 2020年11月7日
- 本棚登録日 : 2020年11月7日
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