カラヴィンカ (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2017年10月25日発売)
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本棚登録 : 290
感想 : 46
5

遠田潤子さんは、登場人物を絶望の淵に陥れるのが絶妙に上手い作家さんですが、この作品はその中でも最も強烈なインパクトのある物語でした。

主人公の売れないギタリスト、青鹿多聞のところへ歌詞のない旋律を歌う容貌のすばらしく美しい歌手の実菓子から自伝のインタビューの相手になって欲しいと指名の電話がかかってきます。
多聞と兄の不動は丹羽谷村の「藤屋」と呼ばれる旧家の息子で、不動は一年三カ月前に亡くなっています。
実菓子は同じ村の旧家「斧屋」の娘で不動の妻であり、その前は多聞と不動の父の青鹿馨の妻でした。

インタビューの内容は実菓子と不動と多聞の兄弟が実菓子の母の鏡子が父の馨の妾となって一緒に暮らし始めた、子供の頃から始まります。
鏡子は派手好き男好きな女性で、兄弟の母の奈津子は前半は地味で、体の弱い兄の不動ばかり可愛がり、世話をする耐え忍ぶ女性として描かれています。
そして鏡子は家を出て行き、奈津子も離婚して二人を置いて家を出ます。
父の馨は実菓子が16歳になるとすぐに結婚するのですが、新婚初夜に亡くなります。
その後の物語も多聞のインタビューによって語られますが、意外にも離婚して出て行った奈津子がキーマンとなります。

次に直系姻族間の婚姻の禁止により事実婚をした不動と実菓子。なぜ不動は死んだのか…。
そして多聞が実菓子を避けようとする本当の理由とは…。
たくさんの謎が後半一気に解き明かされます。
二つの事件の嘘とは一体何なのか。

遠田さんの初期の作品の傑作だと思いました。
小学生だった多聞と実菓子が『ごんぎつね』の暗唱をする場面が唯一ほっとする場面でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年3月22日
読了日 : 2021年3月22日
本棚登録日 : 2020年12月23日

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